薬を使わないトゥレット症候群(チック症)と強迫性障害の治療 §43

Kurikiメソッド(the first edition in 2007)はトゥレット症候群(チック症)および強迫性障害を薬を使わずに治すことを目的とした理論である。この理論はこれらの病気の構造についての推論と解釈に基づいている。精神分析医を読者と想定して書かれており、一般の読者には難解であり、誤読の危険性がある。したがって、Kurikiメソッドは患者が最寄りの精神分析医により治療を受けること、患者とKurikiメソッドの間には常に精神分析医が存在することを前提とする。感情的カタルシスの爆発は強い影響を伴うため、一週間に一度、三秒間のみの実施であり、そのペースを超えた場合は過失による一種の事故である。そのような事故による一時的な精神的沈下は感情的カタルシスに関し未熟な精神分析医の責任とする。また、論理的思考力に乏しい患者には、頭の中でのトラウマ・イメージの加害者と現実世界での人物との錯覚的混同による暴力的復讐感情に関して精神分析医による個人的な説明が不足してはならない。

 

薬を使わないトゥレット症候群(チック症)と強迫性障害の治療
§43

 

チック症、トゥレット症候群の遺伝的要素、先天性

注意
Kurikiメソッドはチック症をトラウマの抑圧手段としての神経症とみなしている。チック症は《強迫性筋肉内感覚》、およびチックの動作への絶対強迫であり、除反応により治すことができる。チック症の遺伝とは、チック症の素因(predisposition)の遺伝、すなわちKV(身体的抑圧の仕組み)への傾向の遺伝である。Kurikiメソッドはチック症の遺伝的要素を公理のひとつとしている理論である。しかし、遺伝的素因は、いとこ、叔父などの親戚を含んだ統計的事実としては知られていなく、著者はチック症の遺伝的素因の存在について断言しているわけではない。チック症、ADHD、アスベルガー症候群、共感覚の素因の遺伝性の存在については、統計資料がないので読者自身が判断すること。チック症、ADHD、アスベルガー症候群、共感覚の素因の親族内での遺伝性について断言することに伴う社会的な責任が問題となることに気づいていない出版物やサイトページがしばしばある。実際の「統計的数字」のみが遺伝性を表し、「理論」が遺伝性の存在について社会的責任を伴ったかたちで断定することはない。結婚の際の遺伝的差別に関する社会的責任である。ADHD、アスベルガー症候群およびトゥレット症候群が正式に診断されることは患者を日常生活における数々の無理解から救うという意味で大切である。同時に正式な診断により、遺伝性の素因が結婚の際の障害物となる可能性がある。遺伝は顕在あるいは潜在であり、遺伝子の遺伝を意味する。筆者には、その問題の答えはない。チック症の遺伝は、ADHDの遺伝やアスベルガー症候群の遺伝の「わずかな可能性」を含むかもしれないが、統計的な資料はない。

肥満の素因(遺伝的、先天的、器質的体質)は体内のエネルギーの消費を減少させ、その結果、脂肪が蓄積される。したがって、食事の内容のカロリー制限や運動により脂肪の蓄積を防ぐことで治療がなされる。また、両親ともに近視の場合、子供も近視になりやすいはずである。子供が近視になったときは眼球の手術をするのではなく、眼鏡をかける。異常の原因が先天的、器質的なものであったとしても、異常への対処の方法は必ずしも原因と同じレベルとは限らない。この原因、症状、治療のレベル差は Kurikiメソッドにも当てはまる。
精神分析学は神経症の治療方法であるが、神経症の特徴としてここでは特に次の二つが大切である。
・神経症の発病は器質的な素因に基づく。
・神経症の症状は身体的症状である。
トゥレット症候群の身体的症状とは、もちろんチックの動作を直接的に指しているのではなく、随意筋の中の《強迫性筋肉内感覚》、およびチックの動作の身体レベルへの強制のこと。身体レベルへの強制とは、身体的感覚の強迫的解決が身体の動きの領域で行なわれるという意味である。行為を伴わない強迫性障害がないのと同じ。「神経症は非器質的な原因による精神的な症状の病気であり、精神分析で器質的な病気を治すことはできない」、「遺伝的な病気は器質的原因ということであり、治療は薬剤や手術のみである」、「チック症は遺伝する不随意運動のことである」という考えは間違いである。
Kurikiメソッドはトゥレット症候群の遺伝的要素、チック症の先天性を前提としている。トゥレット症候群の下記の三つの遺伝的要素がまとまり、病的素因として遺伝する。
(1)身体的抑圧の方法の遺伝、すなわちKVの遺伝。
チック症患者の30パーセントは強迫性障害との組合せになる。一方が他方の合併症ではない。チック症か、強迫性障害か、あるいは両方かというレベルで遺伝があり、たとえば母親が強迫性障害で娘がチック症ということもある。
(2)自立神経失調症の傾向の遺伝。
自立神経失調症の傾向とは、精神的状態と身体的反応のつながりが速いということ。たとえば、緊張すると即座にてのひらが汗ばむというようなことである。チック症の《強迫性筋肉内感覚》やOCDの《強迫性身体感覚》を可能にする敏感な体質の遺伝である。
(3)感情のかたまりの形成の傾向の遺伝。
絶縁体の存在は経験的に認識される。アンナ・フロイトの防衛機制 Abwehrmechanismus の Isolierung は日本では一般に「分離」と訳されているが、ジークムント・フロイトは電気用語や熱学用語の「絶縁」に近い意味を考えていたように私には思える。アンナ・フロイトの健康な精神の一般大衆向けの心理学とジークムント・フロイトの神経症の身体的症状の治療との間に大きなズレがある。絶縁とは二つの物体の間の遮断ということ。2 + 3 = という計算に関する判断が抑圧されるとし、365日間、毎日繰り返されたのちの判断が、5 ではなく、1825 になることが未解決の判断の蓄積である。不快な判断が抑圧され、ポテンシャル感情の大きなかたまりとなるのは、エネルギーのレベルでの強い絶縁状態によるものである。感情のかたまりを物質的なレベルでの存在として認識することは精神分析学の基本。トゥレット症候群の子供の抑圧の絶縁状態が強いのは統計的に遺伝的要素であると言える。トゥレット症候群のトラウマは平和なトラウマが多く、問題はイメージとポテンシャル感情の間の絶縁の先天的傾向にある。溜め込みやすいタチ。そのイメージは明らかに見えているのであるが、裏側のポテンシャル感情が絶縁されていて、トラウマとしては見えない。カタルシスはトラウマの物の具体的なイメージに向かってなされるものであるから、音楽、踊り、スポーツなどを代用としてトラウマイメージなしにポテンシャル感情を発散できるものではない。絶縁体の機能はとても密閉的であり、たとえトラウマイメージが見つかっていても、感情的カタルシスを握りこぶしとともに意図的に行なわないかぎりポテンシャル感情が身体的に怒りなどの感情として表現されることはない。
Kurikiメソッドは、不快判断の抑圧の傾向およびKVの選択における先天性を前提とすると同時に、感情のかたまりの減少させる作業においては治療は先天性を乗り越えている。神経症の症状と先天性の間がはっきりと区切られている。たとえ先天性があっても治療で治すという考えである。親類の人たちのなかに学校の成績が非常に悪い人はいないか、親類の人たちのなかに色覚異常の人はいないかというようなことには、Kurikiメソッドの治療効果は左右されない。チック症の治療においては、先天性は、それ自体が程度の問題であり、健常な状態から区別されうるだけの意味をもっていない。