『夜の果てへの旅』を読んでみる 06

              

 

夜の果てへの旅 [06]


Ça a fait…
Ça a fait…|| faire des histoires 面倒な問題を起こす。|| les uns…, il y en a d’autres qui…. 何々する人たちもいるし、別の何々をする人たちもいる、ということを表す言い方。|| que je soye とても古い形の活用であり、バルダミュが故意に滑稽な書き方をしたもの。通常、que je sois || y a pas à inf. = il n’y a rien à inf. || fou に直接 et が続くときには fol et とすることがある。|| eux les pas fous、形容詞 fous を名詞化し、定冠詞を付けた les fous に対し、その形容詞を否定した pas fous を名詞化したものであり、eux と同格であるとするならば eux, les pas-fous と書くと分かりやすいかもしれない。|| qu’on croye は qu’on croie のとても古い書き方。|| Il n’y a rien de tel que qqch. pour 何々のためには何々にまさるものはない。|| avoir du culot あわてずに、冷静でいること。|| 静かに落ち着いて振る舞っていれば、皆はまともに扱ってくれるものだ。

Cependant mon…
|| cependant バルダミュを反抗的な考え方の人間と早合点する人たちに対し、冷静に精神異常者と判断した人たちの意見がバルダミュの処置に関する正しいものとして通ったのであるが、それにもかかわらず、バルダミュの精神状態の診断ははっきりとしたものではなかった。|| il est décidé… 非人称。|| trouble 戦争の負傷者とはっきり断定することには多少の躊躇が伴うこと。疑わしいこと。|| l’idéal patriotique est compromis 愛国精神が損なわれている。|| un personnel de 複数名詞が続き、それらの集合体を意味する。|| 戦場に行くのがいやであるために精神異常者であるかのように振る舞っているとも疑われる者たちは、本当にそうなのが確かめるような施設にしばらく監禁され、毎日、疑いの目で観察されたのだった。|| Issy-les-Moulineaux パリ近郊の市

Après quelque…
|| surveillance の後にコンマが打たれるべき。|| 直前の文の on は監視の人たちのことであったが、この文では on は収容されている者たちのこと。|| front 戦場。|| poteau 首吊り台の柱、銃殺のための柱。|| locaux 複数で部屋の意。|| louche 汚い。|| devenir un fantôme 死刑になって死ぬこと。|| parlant この動詞の主語は les copains であり、バルダミュは彼らがひそひそ話をしているのを見ながら、という意味。

Près de la grille…
|| expansions 複数で、本当のことを喋ってしまうこと。|| conseil de guerre 軍法会議。|| Spahis フランスのアルジェリア人・モロッコ人の軍隊。|| Génie 工兵隊。

Moi, pour me…
|| tâter ここでは、どのような芝居をしているのかを探るという意味。|| proposer 何々は欲しくないかと言う。|| livret 戸籍証明や身分証明となる書類。六人も子供がいることを証明するものとなり、これを持っていると危険の少ない後方部隊に配属される可能性が高くなる。|| qu’était mort = qui était mort || à cause des 通常は grâce aux と書かれるはず。|| faut ça = il faut ça || ça lie やめることができない。

Les bâtiments du…
|| イスィー・レ・ムリノーからムドン Meudon にかけて、丘のように高みになっており、したがってそれはパリを丘の上から見下ろすような格好になる。|| le jeudi 毎週木曜日という意味ならば複数で書かれるはずである。|| et Lola 動詞が省略されていると見ることもできるが、文脈では il y avait の省略と考えるのが普通。|| gâteaux, conseils et cigarettes ここでは複数の不定冠詞が書かれていない。

Nos médecins…
|| Nos médecins nous les voyions うっかりすると誤読しそうになる。前文に見舞いの人々(面会人)について書いてあるので、三人称複数の直接補語代名詞を彼らにように読んでしまいそうになるが、毎日と書いてあるので話は違う。動詞の主語は我々なので、この直接補語代名詞は医者たちを繰り返していることになる。voir の訳にも注意して、「毎日、我々は医者の診断を受けた」の意。|| interroger 他動詞で、補語は直接補語。なんとなく警官が容疑者に尋問をするかのような動詞でもあるのだが、医者が患者を診断する際の会話でいろいろ身体の具合を尋ねる場合もこの動詞を使う。ちなみに、デトューシュは医者であり、語り手のバルダミュも医学生である。|| au juste この juste は名詞。|| promener は他動詞「何々を連れて歩く」であり、「我々の死刑判決」が直接目的語となっている。代名動詞 se promener との混同に注意。|| affable 愛想のよい || parvenir 通常、良いことに到達した場合の動詞であり、ここでは皮肉的に用いられている。 || doucereux わざとらしく、さも優しげで薄気味悪い。|| tout haut 声に出して、はっきりと言う。|| traître なんでもない山を歩いているときに、油断すると足を滑らす坂の意。|| se laisser choir 落ちる。|| leur affaire ここでは、戦場に行くのを避けるために演じていた仮病の意。


On ne les revoyait…

|| quand on est faible 通常、このあとにはコンマが打たれるはず。|| Leur 「彼らの」とは、文脈より「医者たちの」の意。医者たちの対応が、わざとらしく、気持ち悪いほど親切なため、収容さてれいる者たちは次第に狂ってくるのであるが、医者たちに対する買いかぶりをやめることにより、何でもなくなってくる。|| un autre vous même 自分がもう一人いるぐらいの力がつく。|| et plus utile 通常は否定されるものの繰り返しでは et ではなく ni が使われる。

À côté de moi…
|| caporal 歩兵の上等兵。|| フランスは、第一次世界大戦は1914年8月1日に総動員。|| 高校では歴史と地理はひとつの学科として組み合わされ、histoire géo と呼ばれる。|| se révéler 何々であることが判明する。 || comme pas un 他に例を見ないような。|| l’Intendance 経理局。


Avec nous autres…
|| avoir échoué là この収容所に連れてこられるはめになった。|| vague 不確実ではあるが、多分。|| en instance de もうじき。日が迫っている。|| Conseil de guerre 軍法会議 || les obus 戦場での危険な体験の意。|| instruction 予審。|| différer 延期になる。

[064]

Était-il fou…
|| il devient évident que 非人称の il || 戦争中、「なぜ殺されなきゃならないんだ」と問うことが狂っているのならば、狂っている人間と思われてもいいじゃないか。|| Encore faut-il que 何々をまず前提としての話だが。|| prendre 自動詞、ここでは(ウソが)ばれずに信用されること。|| écartelage = écartèlement 八つ裂きの刑 || il se fait 非人称、何々が生じる、起こる。


Tout ce qui…
|| L’histoire des hommes 人類の歴史。|| carotides 頸動脈 || pratique 形容詞、ここでは哲学用語として、実践的(道徳の規範となるにふさわしいようなという意味)、正しく振る舞うこと。|| titubants 複数形になっているので形容詞的な現在分詞。前の nous étions に続く。|| dans un idéal d’absurdités できる限り酷く振舞うことを理想として。|| les poncifs belliqueux 戦時中に国民を煽るための文句。|| rats enfumés déjà 船の中のネズミは船が沈むのを予知し、前もって海に飛び込んで逃げる。ここでは既に船が煙に包まれているのに、まだ逃げていなかった状態。戦争から一緒に逃げる我々どうしの間ですら、お互いに信じられない。|| セミコロンは二つの文の緊密な関係を表し、ここでの狂気がすなわち恐怖のことであることを表している。|| 戦争を正当化し美化するほうが表。恐怖と狂気が裏。|| 「不条理」という語を流行らせたアルベール・カミュが書いた「裏と表」は1937年の作品。ルイ=フェルディナン・セリーヌの『夜の果てへの旅』は1932年。


Il me marquait…
|| Il me marquait この il は非人称ではなく、プランシャールのこと。|| à travers ここでは、時間的な意味であり、「何々の期間に」のこと || プランシャールは用心はしながらもバルダミュに好感を抱いていたようだ。|| 多人数の集団の場合には通常 délire collectif という語を用いることが多い。|| フレーズとして être logé à la même enseigne という言い方があり、複数の者が同じ逆境におかれていること。|| ここでは動詞が続いているので誤読されることはないのであるが、通常、nous étions tous logés と言う。トゥースと読む。|| laisser entendre 言う。|| sa peau 生命の意。


De temps en…
|| affaire 裁判の件 || constitué ここでは、その男に関する審議の容易ができたという意味。|| bagne de Biribi 命令に背く兵隊を入れる徒刑場。北アフリカにあった。|| Asile de Clamart パリ郊外のクラマーには精神病院があった。|| de toutes les armes あらゆる兵隊の位、軍職の。|| le jeudi 前出であるが、通常は毎週木曜日ならば複数で les jeudis となる。


Tout ce monde…
|| sur le soir そろそろ夕方になりかける頃。|| gaz ガスとはいうが、構造上は芯を上がってくる灯油の気化したガスが燃えているのであり、石油ランプなどと同様の仕組み。|| pleurnicheur 軽蔑的な語であり、めそめそと泣いて、あるいは泣きまねをして、人に哀れみを求める状態。|| あたかも戦争中の世界中の「弱さ」がこの場で泣いているかのように、大袈裟に、だらしなく。 || encore しかしながら、このことですら。|| prendre des larmes この言い回しは辞書には載っていなかった。


Est-ce vrai…
|| 現在形と単純過去が混用されている。|| si peur que の前で j’ai が省略されている。|| ma mort à moi 他人に不当に殺されるのではなく、自分の寿命や自分の病気などによって死ぬこと。|| brûle 直接法現在と同形ではあるが、これは接続法である。|| 最後の la guerre… は、次のバルダミュの台詞が続くのをロラの台詞が遮ったもの。


Oh ! Vous êtes…

|| lâche この形容詞には三つの意味がある。卑怯(自分の利益のために人を裏切るなど)、卑劣(自分に敵意を抱いていない無防備な人に発砲するなど)、臆病(危険に対してびくつくなど)。ここでは臆病の意。|| ne la déplore pas バルダミュは戦争に関して全面的に否定したいので、戦争を嘆くことすらしないという立場を取っている。 || 私が望むこと、それは死にたくないということだ。理屈っぽくなるが、mourir は ce que je ne veux pas であるから、フランス語で上の文のように言うと、何々を望まないことを望むとなり、本当にこのように言えるのだろうかと疑問に思える。|| je ne veux plus mourir もう死にそうな目に会うのは、こりごりだ。


Mais c’est impossible…

|| patrie という語が大文字で始まっているのは、とても大切なもの、立派なものとしての概念の強調と解釈される。|| survivent les fous et les lâches ! 直前の vivent… が何々万歳!の複数であるのに続けて、生きながらえることを願うという意味。|| 英仏百年戦争は1337年から1453年まで。|| le dernier atome 目の前にある取るに足らない文鎮の、そのまた取るに足らない分子と同じほど。ここで言う文鎮とは、書類が飛ばないようにするための、握り拳ほどの大きさの安定のよいガラスの玉や鉄製の馬やライオンの彫刻などの紙押さえのことであり、日本の習字のときに使うような棒状の文鎮ではない。


Dans dix mille…

|| son occasion この戦争の原因に関して || dont elle fut illustrée それによってこの戦争が特徴づけられた || de mémorable 前置詞 de に形容詞が続いたもので、ここでは “tout ce que” を修飾している。tout ce qu’il y a de mémorable のような言い方。|| au sujet 戦争一般に関して || les uns des autres この句は形容詞 mémorable にかかっており、人間たちが戦争ということで他の人間たちの歴史において何かを記憶に留めるとしたら。|| à … de distance ここでは時間的な隔たりの大きさを意味する。|| Je ne crois pas à l’avenir 通常、この言い方は未来が de qqch. で限定され、何々がこれから先、発展していくことはないであろうと言うような主張となる。 ここでは、未来という語で文が終わっており、代名詞 en も使われていない。この戦争が未来の人々には些細な事柄に過ぎなくなるという意味ではなく、バルダミュが人間世界全体に関して失望していること、未来そのものに関して悲観していることも表していると解釈できる。


Lorsqu’elle découvrit…

|| fanfaron 通常は、何か誇らしいことを自慢している人に関して使われる形容詞。ここでは反語的に用いられている。|| quitter ここでは、その場を立ち去るという意味であり、二人の関係を断つという意味ではない。|| C’en était trop. 文脈より、ロラにとってバルダミュの状態は酷すぎたと解釈される。|| ce soir-là その晩は特別に。ジェロンディフの動詞の省略されている主語は主節の主語と一致するのが正しいので、バルダミュは En étant reconduisée と語るべきところであろう。|| recevoir la vocation キリスト教の信者が神から布教活動の使命を与えられることであるが、もちろん神のお告げを実際に耳で聞いたのではなく、教会の偉い人から何かの役目を任じられたときの使命感の表現。上の文では、バルダミュの場合、兵士が戦場で立派な使命感とともに死ぬといった状態ではないことがロラには気に入らなかったという意。|| crêpes これは beignets の誤りではないのか。


En rentrant…

|| chambrée ひとつの部屋にある程度の人数の人が一緒にいるような状態。部屋そのものよりも、そこにいる者たちの集合を意味する。この語の後にコンマは打たれていない。|| des lunettes ここではサングラスの意。|| gaz 晩に点けられているガス灯。|| entendre ここでは、何々するつもりであるの意。|| 動詞 rutiler の主語は「午後」|| aux narines 小鼻の部分。


Mon ami…

|| gaffes 失敗。過ち。|| 動詞 confier に直接目的補語が置かれていないので、再帰代名詞 se とともに用いられるべきところ。|| le temps ne travaille pas pour qqn この le temps は時間ではなく、戦争中の社会の時局、時勢の意。 travailler は、ここでは味方するの意。|| inaccessible à 何々にとって近づくことができない。前置詞に、うっかり pour を用いてしまいそうだ。後悔の念が私の意識に入ってくることはない。|| les crimes ここでは、悪いことと知りながらの悪行。|| renoncer à もはや悪いことをすることへの呵責はない。|| 善悪において後悔するのではなく、何か失敗をしでかしたときに後悔するのだ。


Oui, j’avais cru…

|| malin 利口な策、うまい策をとっていること。|| se faire soustraire à このような se faire inf でも用いられる語は受身の表現として、そのまま憶える。わざと追い出される。soustraire の前置詞を de にしないように注意。|| en la paix よく使われる表現としての副詞句は en paix であるが、ここでは異なる意味で、revenir に続く語として書かれている。|| J’ai failli réussir 通常、J’ai failli の後には都合の悪い意味の動詞が続くのであるが、確かに J’ai failli réussir という言い方はある。faillir と réussir とは、動詞自体は逆の意味を持っている。ちなみに、J’ai failli attendre という歴史的に有名な言葉があるので、私は友人を待たせてしまったときには Tu as failli attendre と言うのであるが、フランス人にはこのネタは必ずスベる。|| 人称代名詞 elle が何の代名詞であるかに注意。à mesure qu’elle s’allonge この elle は戦争のこと。On ne conçoit plus d’individus suffisamment dégoûtants pour dégoûter la Patrie. この文は注意が必要である。続く数個の文で明らかになるように、この文での動詞 dégoûter の動作主 on は文末に重複的に置かれた la Patrie と同格であり、つまり conçoit と dégoûter の動作主は la Patrie として読まなくてはならないのである。動詞 dégoûter の直接目的補語を la Patrie として読むと誤読となる。また、祖国と訳すと国外にいる人間にとっての祖国という意味になってしまうので、戦争時における自分たちの国という意味で読まなくてはならない。「戦争が長引くにつれ、心のひどく腐ってしまった国民は自国の国民の腐敗に対し、すでに無感覚になってしまっていた」と解釈される。続く文に書かれている la Patrie も on と同格として、すなわち「国」というものを擬人化しているのではなく、「国民たちは云々」という人々の集合の意味で解釈される。 || d’où qu’ils viennent それが、どこの出身の人間であれ。この viennent は直接法ではなく、接続法。文法的に同じ形として qui que ce soit や quoi que je fasse などがある。

|| viandes バルダミュが戦場で見た死者たちからの連想。|| 戦争で死ぬ人間ならば誰でもよくなったので、缶詰を盗んだために罰を与えるなどということは、すでも問題とはならなくなっていた。


On va faire…

|| dernière nouvelle 冠詞なしで用いられ、「なんと驚いたことに、ついに」の意 || avec moi 私と一緒ではなく、私を使って、私を材料にしてという意味。国民は私を英雄に祭り上げようとしている。|| folie impérieuse (缶詰泥棒が許されるがために) ものすごい狂気 || que dis-je 接続詞句 「いや、むしろ」|| à l’oublier 前にある à pardonner に対応している。反語的に、缶詰をひとつ盗んだことをまったくなかったことにするためには、大虐殺の狂気はすごいものでなくてはならない。それほど狂気は桁外れに凄まじいものであるという意味。|| bandits ここでは政治家や実業家のことと解釈される。|| opulence 裕福さ || forfaits この単語のもつ様々な意味のなかで、ここでは悪行、罪のこと。|| consacrés この単語もここでは珍しい意味で用いられている。法律で容認されている。 || histoire すでに記されているように、プランシャールは高校の歴史・地理の教師であった。話し方も気取っている。兵役免除が目的で盗みを繰り返していたが、結局は戦場に駆り出されてしまった。|| larcin véniel ささいな窃盗 || attire sur qqch (人々の気持ちを)何々に向けさせる。それは何々であると、人々に思わせる。|| tacite 「黙っている」ということであるが、ちなみに、ラテン語ではタキトゥスであり、歴史家の名はフランス語では Tacite になっている。||


Le vol du pauvre…

|| reprise individuelle (individual reclamation, Individuelle Expropriation) アナキズムのイデオロギーにおける用語、金持ちから盗んで貧乏人に分けること。19世紀後半から20世紀初頭のアナキズムの同調者によって行われた資金調達および経済的資源を獲得する行為。|| Où irions-nous ? 条件法現在なので、反実仮想のSi+半過去が暗に続いている。Si le vol du pauvre n’était pas une malicieuse reprise individuelle. もし貧しい人による盗みがアナキズムにおいて正当性をもっていなかったのならば、今、我々はどうなっていただろう。|| répression ここでは、犯罪の処罰の意。|| sous tous les climats 世界中で。貧困と盗みについては、ヴィクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル」との関連で読まれる。À l’heure, si sombre encore, de la civilisation où nous sommes, le misérable s’appelle L’HOMME; il agonise sous tous les climats, et il gémit dans toutes les langues. セリーヌの時代は、まだマルクス主義などが文学者、哲学者のあいだでも何か良いものであるかのように真剣に語られていた。貧しい人々は、貧しい階級であり、国家の社会構造が悪いのだという考え方が流行っていた時代。プランシャールの左翼的な物腰を理解しながら読む。


Jusqu’ici…

|| celui = avantage || honneur 反語的な表現 || porter les armes フランス語の表現として、「兵士になる」ということの言い方。|| les ordres 政府からフランス国民の全員に向けられた命令。


En haut lieu…

|| En haut lieu 上層部の人たちのところ。えらい人たち。|| passer l’éponge sur 何々については、なかったことにする。忘れたことにする。|| moment d’égarement 常軌を逸したときのこと。戦争に行くのならば、昔しでかした悪い行いも、なかったことにされる。|| l’honneur de ma famille 戦争に行くことは、送り出す家族の者にとっても名誉なこととされる。したがって、せっかく犯した缶詰泥棒の罪など、どうでもよくなってしまったのだ。|| tout seul 家族の名誉と言っても、戦争に行くのは俺ひとりじゃないか。|| passoire, tri 戦場であっちからこっちから銃弾が飛んできて、身体全体に銃弾を受けて、全身が穴だらけで血まみれの《ざる》のようになり、多くの銃弾を、これはドイツ軍の弾、これはフランス軍の弾と《ふるいにかける》のは俺ひとりじゃないか。


Et quand je serai mort…

|| 我が家の誇りとなったとしても、一度死んだら生き返らない。|| je la vois d’ici その時のことは、もうすでに自分には、はっきりと見えているのですよ。la = 私の家族 || Comme tout passe 何にでも終わりはあるので、この戦争もいつかは終わりになるでしょう。|| l’été revenu 次の年の夏。七月十四日は1789年のバスチーユ襲撃の日であるが、軍隊の祝日のようにも扱われている。冠詞を伴わないことが多い。|| à trois pieds dessous 地下3フィートに || sa viande déçue この sa は文脈では自分自身のこと。セリーヌは、死体の肉をしばしば viande と書く。 déçue  こんなはずではなかった。|| ちなみにフランス国家の最後の行は、Qu’un sang impur abreuve nos sillons.


Ah! camarade!…

|| monde 世界と人々の両方の意味で用いられている。|| entreprise ここでは企業と訳されるのが妥当。|| se foutre de 何々のことなどどうでもよく扱う。|| 社会をしっかりと見ていることが大切であり、気をつけて過ごす一刻一刻は、何年もの長さにも値する。ぼぅとしていると、人生を棒に振ることになる。|| se pénétrer de qqch 充分に認識する || signe それによって正体がばれるような気配、兆候、きざし。|| toutes les hypocrisies meurtrières de notre Société resplendissent de ce signe


L’attendrissement…

|| du miteux は、前の sort 運命と condition 境涯の両方を限定している。|| Je vous le dis この vous は、バルダミュも含めた複数で、呼びかけとしての petits bonshommes とともに読まれる。|| de la vie ここでは、一生涯の意。|| 社会の上層部の人たちは、下層の人間を戦争などに利用するときには、必ず、まず甘い言葉で始める。そのことをしっかりと見抜き、その兆候を見逃してはならない。


Louis XIV…

|| au moins 昔の上層部の人間も、庶民のことなど何とも思っていなかったのだが、けっして庶民に媚びてみせることなどしなかった。少なくとも、ルイ十四世は、庶民を何とも思わないことが、そのまま態度に出ていた。 || qu’on se souvienne 接続法なので、この que は pourque qutant que il faut que などの代用。また、補語 de qqch, または en がないので、ルイ十四世に関して注意して思い出すのでなく、漠然と頭に浮かんだ限りにおいてということであり、訳としては「たとえばルイ十四世にしても」などと訳せる。|| à tout rompre 否定的内容の文において、きっぱりと、まったく。|| s’en foutait du bon peuple 口語として、人称代名詞 en と 前置詞 de が重複している。|| = Il se barbouillait du bon peuple … || = on ne mettait pas l’entêtement et l’acharnement à étriper les pauvres. この on は社会の上層部の人間のこと。


Il n’y a de repos…

|| dans le mépris de 誰々からの注意が及ばない場合にのみ。|| pendant que nous y sommes ついでながら。この機会に。今のうちに。話は少し横道に逸れるが。|| peuple のための人称代名詞は男性三人称単数。|| raconter des histoires これを歴史を語ると訳すと誤訳となる。いい加減なことを言う。ありもしない、出鱈目なことを言う。|| catéchisme フランスではカトリック系の学校などでは子供たちにキリスト教の考え方の基本的なことがらを教える。|| 偉い哲学者の先生方は、市民を啓蒙し、それまで本も読めなかった市民たちの自負心は立派な知的風潮によって、おだてられ、すっかり乗せられ、その気になってしまう。


Ah! ils en…

|| vérités 哲学者たちは《真実》と称し、人々がなるほどと思うような美辞麗句を並べていた。|| 二十世紀前半、セリーヌの時代の文化人は、左の人がとても多かったようだ。そもそも西洋哲学という宗教批判のための学問は左であり、啓蒙主義のディドロやヴォルテールなども《現代から見ると》かなり左と言えるのではないだろうか。近代史における戦争と哲学の関係は、二十一世紀では明らかなことであっても、その当時は気づかれていなかったのかもしれない。「俺たちは自由だ、自由だ」と言うとすぐに、「じゃあ戦争をしよう」ということになる。|| au moins des philosophes そのころは、それでもまだ哲学者と呼ばれえるような人間が指導的な立場にあった。


Et vive aussi…

|| Carnot 1793年、国家総動員で国民軍を作り、フランス革命戦争を戦う。|| gars 単数でも s が付き、r は発音されずにギャと読む。|| fétichisme ここでは政治的なひとりの人物に対するの人々の盲目的崇拝を意味する。|| Ça n’a pas traîné とても迅速に完了した。|| envoyer des baisers 投げキッスをする || est fin mûr (pour) この fin は副詞であり、完全にの意。


Alors n’est-ce pas…

|| enthousiasme d’être libéré すでに自由な状態であることから感じる喜び。これを自由になることへのあこがれと読むと誤読。「宝くじが当たったら何か高いものを買わなくてはいけないのか」というような問い。自由になったら、その喜びによって何か生産的なことをしなくてはいけないのか。人々は哲学者たちに何を啓蒙されたのか。|| pas … pour les prunes ただいたずらに何々だったのではない。何々であったことをちゃんと活用していた。|| coups de gueule わめくこと || bien senti 演説に熱がこもっていること。|| mobiliser 人々を兵隊として召集する || couillon まぬけ || drapeautique 愛国的、ナショナリスト || Charles François du Perrier du Mouriez 1739 – 1823 フランスの軍人,将軍,政治家。フランス革命戦争勃発に際して,1792年9月20日バルミーの会戦でプロシア軍に勝ち,同年 11月にはオーストリア軍を破ってベルギー征服に成功 (→ジェマップの戦い )。93年2月オランダ攻略を命じられたが失敗し,3月ネールウィンデンで敗北した。そこでジロンド派支持者であった彼は,敗北によって深刻な事態に追込まれることを恐れてオーストリアの大佐 K.マックと密約をかわし,フランス軍のベルギーからの撤退と,国民公会解散のためのパリ進軍に同意して祖国を裏切った。パリに向う途中フランス軍の銃撃を浴びてオーストリア軍に逃げ込み,その後ドイツ,スイスを転々としたのち,イギリスに亡命,1800年からは年金生活をおくった。ブリタニカ国際大百科事典。|| déserter 兵が持ち場から脱走する || mercenaire お金が支払われることを目的として雇われた兵。傭兵。したがって外国人であることが多い。次に、愛国心を学んだ人々が無賃金で兵士になることについて語られていく。


Le soldat gratuit…

|| C’est du nouveau. こりゃあ初耳だ || tout Goethe qu’il était ゲーテですら、 “Von hier und heute geht eine neue Epoche der Weltgeschichte aus, und ihr könnt sagen, ihr seid dabei gewesen.” Kampagne in Frankreich ヴァルミーの戦い (1792) は、愛国心のみで無賃金の兵隊からなるフランス軍と金で雇われた兵隊からなるプロイセン軍の戦いでありながら、フランス軍が勝利した。|| en reçut plein la vue 驚いて目がくらんだ。|| étripailler = étriper || l’inédite fiction patriotique 真の愛国心などは持たない、口先だけの扇動者によって人々はそそのかされていたのだ。|| selon les habitudes de son génie 彼(ゲーテ)の才能にとっていつものことであるように || Tu parles! 相手の意外な発言に対する驚きの表 || par la suite その後 || se trouver bien de 利益を得る || Maurice Barrès モーリス・バレス 1862 – 1923 || la cavalière Elsa, 女騎士エルザはピエール・マッコルラン Pierre Mac Oran (1882 – 1970) の小説 pdfで読みたい人は、こちら


La religion drapeautique…

La religion drapeautique remplaça promptement la céleste, vieux nuage déjà dégonflé par la Réforme et condensé depuis longtemps en tirelires épiscopales. Autrefois, la mode fanatique, c’était «Vive Jésus! Au bûcher les hérétiques!», mais rares et volontaires après tout les hérétiques… Tandis que désormais, où nous voici, c’est par hordes immenses que les cris: «Au poteau les salsifis sans fibres! Les citrons sans jus! Les innocents lecteurs! Par millions face à droite!» provoquent les vocations.

|| religion drapeautique 戦争を好む国家体制があたかも宗教のように国民の精神に浸透したという意味。|| promptement 二つ目の p は発音しないのでプロントモンのように読む。ちなみに英語では読んだり読まなかったりする。!また、日本語の「もしもし」のように、イタリア人は電話を取ったときにプロント pronto と言う。|| céleste 特殊な場合を除けば、常に形容詞。ここでは la religion céleste の意。|| nuage という語は、フランス語では悪い意味で用いられることが多い。 || la Réforme 1517年のマルティン・ルターの年宗教改革 || tirelire 貯金箱。免罪符(贖宥状)の販売でお金を貯めたこと。ヨハン・テッツェルなどへの連想もあるかもしれない。|| condensé 大きく膨らんでいた水蒸気の雲の水滴が集まり凝結して雨になってしまうこと。|| après tout この前後にはコンマが欲しいところだ。= après tout, les hérétiques étaient rares et volontaires || les hérétiques 中世、教会とは異なる主義主張の者は、火あぶり、断頭で処刑されていた。(ジョルダーノ・ブルーノなど) || volontaire 兵隊として志願兵という意味もあるが、ここでは宗教における異端者は各々の気持ちから異端者となっているだけなので、それほど真剣ではない場合もあり、敵としては恐れるに足りないものであるということか。|| poteau 首吊り台の柱 || salsifis 根菜類の一種 再版の前書きにも、この語がある。|| autrefois と désormais の対照 || 今は国民を国家体制のために啓蒙し叱咤することによって容易に兵隊を鼓舞するようになった。|| salsifis sans fibres 弱々しい兵士 || les innocents lecteurs 新聞などのプロパガンダを鵜呑みにしてしまう人々。ここでの四つの語のうち、最初の二つは「腰抜け!」などの叱咤であり、あとの二つは馬鹿にした呼びかけ。「騙され易い皆さん!」
|| face à droite 「みんな、まとめて、右向け右!」観察者から見ての右のほうを見ているような姿勢。その人の顔の右側の横顔が観察者から見えることになる。軍隊の号令の「右向け右」のようにも思えるがウィキペディアの ordre serré のページには載っていない。||

 

 

citron sans jus


Les hommes qui…

|| découdre 腹を切り裂く || les Pacifiques puants 戦争に向けて扇動されたときの国民の目に、普通の平和を好む人々は悪臭を放つ特殊な存在として映る。|| qu’on s’en empare この que は関係代名詞ではなく、動詞は接続法であり、ここでは命令を表す。|| et bien fadées この et は強調の表現であり、付加のための語ではない。|| les années 残りの人生としての何十年かを ||

ルイ=フェルディナン・セリーヌ夜の果てへの旅