『夜の果てへの旅』を読んでみる 04

              

 

ルイ=フェルディナン・セリーヌ
夜の果てへの旅 04

Je vais aller voir…
|| indiquer ここでは、指さして方向を教えるという意味であり、その方向は直接補語としての名詞ではなく、前置詞 dans が付いて、指さす動作を修飾する副詞句として書かれている。|| en veillée 通夜の ||「彼ら」とはドイツ兵たちのことであり、もし万が一、バルダミュが彼らに捕らえられるようなことがあった際にも、他のことは喋ったとしても、au moins 私たちのことをベラベラと喋ったりだけはしないで下さいという意味。|| 中性代名詞 le は、「あなたがたがここにいるかどうか」ということを表す。ここにいると言う場合の、「ここ」は là が使われ、être ici とは言わない。 || 当時、1 スーは 1/20 フラン、したがって 100 スーで 5 フランになり、とくに 5 フラン硬貨をソン・スーと呼んでいた。|| Pas d’amour à perdre もしも一文無しの浮浪者が道で寝ていて、誰かが「こんなところに寝ていたら、寝ている間にポケットの中の財布を盗まれるぞ」と忠告したら、浮浪者は「失う金など持ってないよ J’ai pas d’argent à perdre 」と答えるかもしれない。あの家の家族とバルダミュとの間には 5 フラン玉という関係があった。もしあの家族が無料でワインをバルダミュにくれたのならば、愛の表現と言える。また、5 フラン玉を払ったことをバルダミュが不快と感じずに満足しているのならば、それも愛の表現と言える。ところが、家族は 5 フラン玉を要求し、バルダミュはそのことに不満足であることは、そもそもこのケチな世の中には愛などないとも言えるのである。 5 フラン玉ひとつのことで、人は人を憎んだり皆殺しにしたくなったりする。5 フラン玉がある限り、この世の人間の心には失いうるような愛はない。 このような文を日本語訳する場合には、通常、逆の表現がなされる。「もし、この世に愛があるのならば、5 フラン玉などというケチなものは存在しないはずだ」

« Demain ! » répétaient-ils…
|| これは前置詞 à の付いた、「じゃあ、また明日」の挨拶ではなく、バルダミュの言った明日という語に対する三人の反応である。いつ殺されるとも知らぬ状態では一時間という長さですらスゴイこと phénomene なのであり、一時間が経過するということ以上に望むことはなかった。彼らにとって明日という語は、まったくあきれるような、感嘆符の付いた、無意味さをもっていた。頭にあるのは、あと一時間生きるかどうかであった。|| au fond 実際。|| dans un monde où tout s’est rétréci au meurtre 殺戮というものだけに向かって凝縮した世界。殺戮しかない世界。 || バルダミュにとってもそれは同様であり、時間が経過するということすら、もう既に終わっているものなのであった。|| Ce ne fut plus bien long. たとえば、自動車などに乗ってどこかへ行くときに、運転手に目的地まで遠いのかという質問に対し、すぐに着きますという答として C’est pas long. と言うことがある。ここでは「先は、もはや長くはない」という意味。|| Et puis rien. 「それだけだ」という決まり文句。= et puis c’est tout.

Il devait être…
|| guère plus それ以上に過ぎているということはない。プリュースと発音する。|| pas 馬の並足の歩調。|| 街路のガス灯は灯油を燃料とし、芯からの蒸発に火がつくものであり、石油ランプと同じ仕組みである。|| buffet 駅構内の食堂

Des rues, des avenues…
|| parallèles 名詞、平行線。|| 町のことごとくが明るく照らされているのとは対照的に周囲はまったくの暗黒であり、明るい町をむさぼるような空虚であった。 町を修飾する部分の elle は強勢的な代名詞を付け加えたもの。直接目的語が繰り返されていて紛らわしいかもしれない。|| comme si on l’avait perdue la ville 本来ならば町はドイツ軍から守るためにひっそりと隠れるようにあってよいのだが、この町は明るく照らされ、あたかも既に破壊され、あきらめられ、捨てられたもののように、そこにあった。|| tertre 小さな塚のように土が盛り上がっている所という意味。因みに、モンマルトルの丘の上にはこういう名前の広場があって絵描き達が観光客に絵を売っている。

Cela ne m’apprenait…
|| もしもドイツ軍がこの町に来たのであったなら、当然、町を焼いてから出て行くはずである。よほどただならぬ計略があるに違いない。 || canon 大砲の砲火の形跡がないのは、実に怪しいことであった。

Mon cheval voulait…
|| 乗り手が馬を止めるときに手綱を引くことを自動詞を使って tirer sur la bride と言うらしいので、ここではその逆である。

« Gueule pas si fort…
|| une voix qui avait l’air bien française このような l’air に続く形容詞は文の主語が物の場合は物に一致し、人の場合は自由である。ドイツ人がフランス語を喋っているのではなく、いかにもフランス人がフランス語を喋っているようであった。ここでの voix はアクセントの要素を意味的に強調したものとしての声のこと。|| à la traîne グループからはぐれた || je pouvais le voir 動詞 voir はすでに「見ることができる」、「見える」という意味をもっているので、通常 pouvoir とともには使われないが、暗闇の中であることが強調されている。|| à la classe 1914年から1918年までの第一次世界大戦の前半、フランスの兵隊はケピを被っていたが、そろそろ兵役が終わる頃(classe)になる兵士のケピのひさしはボロボロになっていたという意味かと私には思われるのだが、間違いかもしれない。|| Après des années et des années, je me souviens bien 一瞬、敵との遭遇かとも思われる場面から、現在に戻って思い出されるものとして書かれることにより、バルダミュの安堵感が読み手に表現される。

Nous nous rapprochions…
|| se rapprocher この動詞は再びという意味合いをまったく伴わずに使うことができる。|| un peu plus 「もうちょっとで」(引き金を引くところだった)。J’aurais p.p. ··· などのような条件法過去の文とともに用いられる。たぶん、s’il avait eu un peu plus (de qqch) のことではないだろうか。|| réserviste 予備役軍人。|| triste 日本語では悲しいという語と孤独で寂しいという語が異なるものとして使い分けられているが、しばしば西洋の言語ではこの同一の語で表される。日本語でどちらの意で訳すかは、文脈によるのであるが、ここの文ではその判断は難しい。|| valable ドイツ兵ではないということに関して正当性があるように感じられた。|| quelque chose、この不定代名詞も、ここでは機械的に訳すことはできない。ここでは何かしらの効果をもつものとして、決してないがしろにはできないというような意味。

« J’en ai assez moi…
« J’en ai assez moi, qu’il répétait, je vais aller me faire paumer par les Boches… » Il cachait rien. « Comment que tu vas faire ? » Ça m’intéressait soudain, plus que tout, son projet, comment qu’il allait s’y prendre lui pour réussir à se faire paumer ? « J’ sais pas encore… – Comment que t’as fait toujours pour te débiner ?… C’est pas facile de se faire paumer ! – J’ m’en fous, j’irai me donner. – T’as donc peur ? – J’ai peur et puis je trouve ça con, si tu veux mon avis, j’ m’en fous des Allemands moi, ils m’ont rien fait… – Tais-toi, que je lui dis, ils sont peut-être à nous écouter… »
J’avais comme envie d’être poli avec les Allemands. J’aurais bien voulu qu’il m’explique celui-là pendant qu’il y était, ce réserviste, pourquoi j’avais pas de courage non plus moi, pour faire la guerre, comme tous les autres… Mais il n’expliquait rien, il répétait seulement qu’il en avait marre.
|| se faire paumer 捕らえられる || Boches ドイツ人 || se débiner 抜け出す。 || celui-là 動詞の主語 il の繰り返しであり、直接目的語ではない。予備役軍人という語でさらに繰り返されている。

Il me raconta alors…
|| débandade 軍隊が散り散りになってしまうこと。|| on バルダミュの隊の猟歩兵たち。les この予備役軍人がいた隊。|| l’air… そういうことはよくある。バルダミュもそのような目に会ったことがある。|| この部分は、その予備役軍人がバルダミュに語った内容がだいたい間接話法のような立場で書かれている。次に直接話法が続く。

« Moi, tu parles,…
|| 細かい文が沢山切れて並んでいるが、すべてこの予備役軍人の台詞。 || tu parles si 勿論 || 続く引用符に囲まれた部分は、この予備役軍人が仲間から逃げ出す際に自分自身 Robinson に向かって言った言葉。|| C’est mon nom Robinson! これは、この予備役軍人がバルダミュに語る際に自分がロバンソンという名であることを説明した部分。|| les mettre 逃げる。|| Pas vrai ? 逃げるなら今だ、「なあ、そうだろう。ちがうか。」と自分自身に言った。|| il était en train de crever の倒置 || prendre par 進む道を選ぶ。|| amoché 負傷した。|| le piston 軍隊の俗語で capitaine のこと。|| culotte ここでは、軍服のズボン。ズボンのところを押さえて吐いていた。|| = Il n’y avait personne || avoir son compte 死ぬ || pisser du sang 血尿

« “Finis ça !…
|| 予備役軍人ロバンソンの語りが直接話法で続く。引用符の台詞はロバンソンが隊長に向けて言ったこと。隊長は死を前にして母親の名を読んだりしていたので、この予備役軍人は隊長を罵倒したのであった。|| dis donc 間投句。ジドン。|| en passant 隊長の傍らを通過しながら言った。|| coin de la gueule 顔面 || tu parles si ça a dû le faire jouir 勿論、彼は嬉しかったに違いない。つまり、反語的に「部下にののしられて、くやしかっただろう、いい気味だ」の意。|| la vache 罵倒語。|| barda 男性名詞。兵隊の荷物一式としてのリュック。この小説の主人公の名の由来でもある。mu は mouvoir の過去 mû かと思われる。

Figure-toi que moi…
|| ロバンソンの語りが続く。j’ai envie de tuer personne 誰をも殺したくはない。自分はそもそも人を殺したりするような人間ではない。人の殺し方など習ったことはない。否定の副詞 ne が省略されている。|| histoires いざこざ || déjà… 平和だった頃ですら。なにか、いざこざが起こったときには、いつもその場から立ち去るようにしていた。|| aller en usine フランスで若い人が就職口を探す際、各自の素質や運などで面白い職を見つけたり、自分で商売を始めたりするのだが、そうでない場合は残念ながら工場で働くということになる。それに反し、この予備役軍人は単純な生活を好む人間であり、パリにいた頃は工場で働きたいという気持ちをもっていて、工場での働き口を常に探していた。|| graveur 印刷工場で働く人。ところが、ロバンソンが働いていた印刷工場では、しばしば口論が始まることがあった。|| パレロワイヤル界隈の通りの名前が続く。|| lot 縄張り。|| commissions 小さな用事のお使い。

Si les Allemands…
|| 会話において、しばしば tu が on のように使われることがある。|| bon (文脈より) 明らかに敵兵として撃たれてしまう。|| en fantaisie いい加減な恰好でふらふら歩いている。

Je me rendais…

Je me rendais compte que l’âge c’est quelque chose pour les idées. Ça rend pratique. « C’est là qu’ils sont, hein ? » Nous fixions et nous estimions ensemble nos chances et cherchions notre avenir comme aux cartes dans le grand plan lumineux que nous offrait la ville en silence. « On y va ? » Il s’agissait de passer la ligne du chemin de fer d’abord. S’il y avait des sentinelles, on serait visés. Peut-être pas. Fallait voir. Passer au-dessus ou en dessous par le tunnel. « Faut nous dépêcher, qu’a ajouté ce Robinson… C’est la nuit qu’il faut faire ça, le jour, il y a plus d’amis, tout le monde travaille pour la galerie, le jour, tu vois, même à la guerre c’est la foire… Tu prends ton canard avec toi ? »

|| 年の功。年をとっただけ、よい考えが浮かぶようになるものだ。|| 短い台詞は後の文脈によりロバンソンが言ったものと思われる。勿論、過去時制で書かれている部分が地の文。|| aux cartes あたかもトランプでゲームをするように。 || plan 地図。明かりのともった町が地図のように見えた。 || la nuit や le jour は時の副詞のように、夜間や昼間などの意味で dans などの前置詞を伴わずに使われる。|| sentinelles 線路を渡るときに、もし見張りがいたのであれば、銃で狙われたであろう。|| Peut-être pas. 見張りはいないようにも見える。|| amis 文脈より、ドイツ兵たち。|| galerie 地面に掘る通路、壕。|| foire ここでは、大勢の人がごった返して働いている場所の意。|| canard ここでは、馬の意。

J’emmenai le canard…
|| Prudence 敵からの射撃が始まったら、すぐに逃げれるように用心しながら || 独立分詞節、= (avec) ses grands bras rouge et blanc levés || この non plus がロバンソンも私もという意味なのか、このような踏み切りの遮断機を他の物と同様に見たことがなかったという意味なのかは不明。|| des comme ça 口語。|| On était forcés de このように不定代名詞 on は動詞は常に単数が使われ、属詞は実際の人の数と性によって変化する。|| cogner ここでは、大きな音を立てるという意。

Ce Robinson comptait…
|| se sortir de 悪い状況から抜け出す。|| pas 馬の並足の速さで。「徒歩で」à pieds とは異なる。|| sans ruse 敵の目を欺くような策も弄さずに。身を隠す工夫もなく。|| exercice 軍隊の訓練における行進。シャンゼリゼでの défilé とは異なる。|| permission 軍人の休暇。|| hussards そのように呼ばれる連隊があった。|| 最初の ils sont entrés はドイツ軍、次の ils savaient pas はフランス軍。|| Ah! Les vaches! これは Gérard Jugnot が映画のなかで非常にしばしば口にする言葉だ。

Ah dis donc !…
|| アジドンと読む。この台詞に続く On n’en revenait pas… は地の文と思われるのであるが、Gallimard の FOLIO版でも行は改まっていない。また、Je suis le Maire de Noirceur の台詞の前でも行は改まっていない。日本語で文章を書く場合は昔の文部省が鍵括弧のところで常に行が変わることに決めたので、そのような教育を受けた私には抵抗がある。西洋の小説では台詞の中にまで地の文が混ざるほどであり、日本人の感覚でこのぐちゃぐちゃな文章を批判することはできない。朗読を聴いていると思えば、鍵括弧や改行はなくてもよいものとも思え、占領軍下の日本の文部省が決めた規則を外国文学にまで押し付けるのは間違い。|| la Poste フランスの郵便は昔から郵政省ではなく、ひとつの会社が行っており、常に定冠詞付きの大文字で書かれる。ここの文では郵便局のこと。|| pavillon パビヨンは町中のアパートの建物に対して一戸建ての家の建物を意味する。maison は、家というものに対する気持ちが加わる。|| avoir été sonner à la porte 「呼び鈴を鳴らした」(On = バルダミュとロバンソン)

Et il est sorti…
|| pour nous reconnaître le Maire 最後の le Maire は最初の il のこと。市長(または村長)はバルダミュとロバンソンの顔を見るために外に出て来た。(しかし、顔が見えないのはむしろ市長のほうなので、市長が出て来る必要はない。バルダミュとロバンソンは外にいて、月明かりで顔が見えるから、市長は家の中から彼らの顔が見えるはずである。) || en travers des dispositions 手筈の邪魔をする。|| résolutions arrêtées 決断。|| être prévenu 予告を受けている。|| Préfecture 私は Préfecture de police のことかと思ったが、警察所をそう呼ぶのはパリとマルセイユだけらしい。ここでは、県庁の意。|| ambulance これも救急車と読んだら間違いで、戦争中の野戦移動病院のこと。|| 市長、市民はドイツ軍の銃撃により皆殺しにされるよりも、簡単に降伏し、捕虜として捕らえられることを選択し、町中の明かりを灯して、ドイツ軍さん、いらっしゃいと待っていたのである。そこにフランス兵が来たので、話が厄介になると思った。銃撃戦が始まったら市民にも死者が出る。

Alors il se mit…
|| l’intérêt général 社会一般のことがら。市の文化遺産などについて。|| s’il en était une… もしも聖なる任務などというものがあるとしたらの話だが。|| S’ils allaient la brûler ドイツ軍はその教会に火を点けたりもするのだろうか。この si は疑いであり、仮定ではない。|| Par dépit de nous trouver là nous こんな場所に二人のフランス兵を見つけたのに腹を立てて。 || Il nous fit ressentir… 市長はバルダミュとロバンソンに感じさせた。|| inconscient 空気の読めないという日本語をこの形容詞で仏訳することもできるかもしれない。

Pendant qu’il nous…
|| d’un mot 短いあいづちの言葉、oui や c’est ça など。|| On nous rejetait 市長の家族はバルダミュとロバンソンを邪魔者扱いし、つっけんどんに追い返した。市の文化遺産など、今、そのようなたわごとを話題にすることについて遺憾の意を表す者が誰もいないので、勝手に盛り上がっているかのように市長は話していたのだが、バルダミュとロバンソンの深刻な様子の前にして、それはもはや長続きするものではなかった。|| 女性名詞複数は valeurs、男性名詞複数は fantômes (市長の演説における文化的なきれいごとの幻想)

Il s’épuisait en…
|| touchant バルダミュが見ていても気の毒になるほどの || Devoir この名詞をバルダミュは大文字で始めているが、なぜ大文字にしたのかは読者には伝わらない。倫理的な義務、社会的な義務、兵隊としての任務のどれかの意味と考えられる。たぶん任務と訳してよさそうであるのだが。 || à tous les diables どこへでも行ってしまえ。|| décidé 容赦ない態度 || puissant 名詞、有力者。 || brûler 自動詞として、焼け死ぬ。|| C’était peu たったそれだけと思われるかもしれないが、|| バルダミュがその夜に会った人間はロバンソンに始まっていた。

« C’est bien ma…
|| C’est bien ma chance! ここでは反語であり、ついていないことの表現。もしバルダミュがドイツ兵だったら捕虜になれたのに。|| gars これで「ギャ」と読む。|| une bonne chose de faite 過去分詞が前の名詞を修飾するときの例外的な口語的用法として de が置かれている。前の名詞に性と数を一致させる。男性単数を用いる例として quelque chose de や rien de などもある。|| se débarrasser de soi-même 自分の存在から開放されて、楽になること。この小説における意味は、多分、戦場では自分が生き続けることを常に考えている状態に置かれているということか。|| un drôle de mot; Militärorden 軍事の組合とも読める。

Comme il ne se…
|| 否定文で personne à inf. 何々する人は誰もいない。|| 二人でベンチに座り、ツナの小さな缶詰をひとつ開けて、指先でつまんで食べている様子。|| du canon 部分冠詞が付いて、大砲の音の意味。大砲を単数と考えると間違い。|| si に大過去が続いて反実的な望み得ない願い「何々だったらいいのになあ」が表現される。

Après ça, c’est…
|| dans l’eau は uriné を修飾する。déchargé と uriné の間には言葉の遊びがある。|| le Pont, le Pasteur セリーヌがこれらの名詞を勝手に大文字で始める理由は読者には伝わらない。固有名詞的な体裁をもつ。|| pièce 部屋。牧師(プロテスタント)が住んでいるであろうと思われるこの家は小さく、中に入ると、それは一部屋のものであった。ベッドの長方形の枠にはまっている数本の横棒の部分を sommier、その上に乗せる厚さ20センチほどののマットを matelas と呼ぶ。床の上に直接マトラを置いて、その上に遺体を置いている。|| aussi 葡萄酒を五フランで買った家の死んだ息子の遺体もマトラの上に置かれていた。|| encore 葡萄酒を五フランで買った家の死んだ息子の死体の次という意味。|| comme tête 顔の造作が

« Tu parles qu’il…
|| Tu parles que 「まったく・・・」この tu は君という意味ではない。|| un de moins そのうち殺されることを前提にすれば、もう一日生きることは、残りの日数が一つ減ることでもある。|| cerceau 樽のたがの輪であるが、ここではサーカスの犬などが飛んでくぐる輪のイメージがあるように思えるのであるが、そのようには書かれていない。remplis FOLIO では複数で印刷されているが、インターネットのテキストでは版によっては単数で書かれているかもしれない。

Tu reviendras pas…
|| 最初の否定疑問文で、ロバンソンは明日の夜も同じ場所で同じようなことをすることが分かる。|| un général 将軍。|| il a fait 一般に小説の文章では、このように動詞 dire の繰り返しを避けるために動詞 faire が用いられる。|| ceux d’aujourd’hui 現在の人たち、すなわち読者たち。


Pour être bien…
|| ここで新しい章が始まる。各章には番号はないが、一応、第五章ということになる。バルダミュは戦場の経験により、生を死との対比においてのみ考えるようになっていた。バルダミュはパリに戻っているが、56ページ(folio)に “Quand la guerre sera finie,” という台詞があるので、まだ戦争は終わっていない。|| この部分では、文中の名詞や形容詞のほとんどが、通常は単数となるべき語まで複数で書かれている。戦争も煮詰まってくるとパリの市民の精神性も劣化し、互いに品行を堕落したものとしない限り、互いに歩調を合わせることができなくなっていた。|| bien vu, bien considéré 他人から、つまはじきにされない。|| copain ここでは形容詞。|| à l’arrière フランス軍の銃後、はなわちフランス国内の内地。|| vicieux 品行が悪い。|| avoir le feu au derrière 発情している。|| grande gueule やたらと口数の多い。偉そうなことを大声でほざき、それだけで行動がともなわない。前出の動詞 avaient の繰り返しが省略されている。|| avoir les mains partout (女性の身体の)いたるところを手で触る。|| poche これは女性の衣服やカバンに付いているポケットではなく、おそらく隠語のようにして用いられているものと思われるのだが、それらしい意味としては辞書には載っていない。出版に際し、直接的な表現を避け、語を書き換えたものとも思われる。

On héritait des…
|| この部分の解釈は少々難しい。主語 on はパリの市民のこと。à l’arrière 内地としてのパリ。|| héritait この動詞はここでは他動詞であり、des… は直接目的補語、すなわち、戦場から戻ってきた兵士たちをパリが迎え入れること。一般に、何かが欲しい場合、もらって嬉しいのであるが、何かを譲り受ける場合には必ずしも喜んで手に入れるわけではない。hériter は、ときとして親の先天的な病気や身体的な欠点などを受け継いだときにも用いられる語である。精神的にも肉体的にも傷ついた兵士たち、あるいは、傷ついたようなふりを装っている兵士たちがパリに戻ってくるのである。supporter の前に前置詞の à が付きそうにも見えるかもしれないが、動詞 apprendre の直接目的補語は la gloire と les bonnes façons の二つであり、supporter は les bonnes façons のほうに付いているので à は入らない。この la gloire の意味を「名誉」などと解釈すると何のことか分からなくなるが、兵士たちの「負傷」を遠回しに表している語として解釈すると分かってくる。ひどい重傷を負った兵士もいるのであり、パリの市民たちは彼らの状態を目にし、それを沈黙の内に受け入れていく。|| tantôt ある時は看護婦、ある時は戦争の苦しみに殉ずるところの母親たちは。|| voile 喪に服している時に被っているヴェール。文法的には単数にすべき。|| diplôme 通常、この単語は学校で何かを専門的に勉強して、それで商売ができるための資格という意味であるが、それでは文脈において意味がない。多分、息子が戦死した際に政府か市役所から発行される書類であり、様々な手当の金額を受け取るための証明書 attestation となるものではないだろうか。|| remettre 手渡す。|| à temps 息子が戦死した時には、ただちに。日を置かずに。|| s’organisaient 世の中が都合の良い形で片付けられていった。
Wikipediaの「傷痍軍人」のページにとても参考になる箇所があったので、コピーしておく。
“戦争、紛争などの武力衝突は、必然的に死者のみならず負傷者を生み出す。特に近代戦は、大量の戦傷者を生みだす傾向がある。戦時中は国家全体の気分が高揚し、「名誉の負傷」などと呼ばれ、地域社会や家族が傷痍軍人の世話や援助を自主的に行う傾向が強いが、戦争が終了すると、戦争に対する熱が急速に冷め、傷痍軍人に対する社会的援助や支援も衰える傾向にある。身体に障害を受けた傷痍軍人は復員後に定職に就くことが難しく、社会の最貧層に転落し、犯罪に手を染める者もおり、しばしば大きな社会問題となった。そのため時の政府は慰労及び補償のため、軍人恩給や療養施設(例:フランスの廃兵院)などの制度を整備し、社会的な不安の解消に務めてきた。”

Pendant des funérailles…
|| 葬式 funérailles (常に複数) と埋葬 enterrement の際、人々が心の中で何を考えているかを書く。|| mignonne 顔が美しいこと|| avoir du tempérament 性欲が旺盛 || par contraste 若くして戦死した者とは対照的に、自分たちはこれからもずっと長く生き続ける。|| suivre l’enterrement 埋葬に参列する。|| envoient des grands coups de chapeau 礼儀正しく敬意を表しながら振る舞う。|| se tenir bien 行儀よくする。|| en dedans 顔には出さずに、心の中だけでならば。

Dans le temps…
|| ここに書かれた entresol とは、天井の高い大きなサロンの中での2メートルほどの高さにある空間的な床のことであり、手前には壁がないので、言わばサロンの中のバルコニーごとく、サロンの床からはそれを見上げるかたちとなる。平和なときには、下でピアノを弾き、上で数人で踊っていたものだ。それに対し、ここでは「顔で笑って心で泣いて」の逆であり、見えるところでは悲しそうにしていながら、地下、見えないところ、すなわち心の中では楽しんでいるということ。|| いかがわしさは、むしろ戦場での勇敢な兵士の勇敢さをいかがわしいものとしている。血だらけの身体、死亡などを勇敢な振る舞いと呼ぶことへの嫌悪から、それを蛆虫と並べている。体を張った勇敢さなら、蛆虫にもある。|| et mieux encore そればかりか、むしろ。|| trouvait A B , A を B とみなす。この変な様子を発見しなかったと解釈すると誤り。 戦場から戻ってきた兵士たちは、そのような「悲しそうな、辛そうなうわべ」と「むしろ自分はまだ生きていて、よかったと思っている」の二重構造に甘んじた。

Pour ma part…
|| m’affranchir 社会的に安定する。バルダミュはどのようにパリに戻ってきたのかについて、またどのように負傷したのかについては読者に明かさない。|| je m’en fus à ···, 外出して・・・に行った。ロバンソンが軍隊から逃げる話の箇所で、パレロワイヤル界隈が書かれていた。|| foyer 劇場のロビー || se déssaler 海千山千の人間になること。悪ずれること。

Il existe comme…
|| この関係副詞 où は直前の tant de mois をその先行詞としている。バルダミュはまだとても若いので、年という単位で書くことはできないであろうし、日という単位では細かすぎるので、月と書いてある。|| se passer de ・・・なしで済ます。|| aurait bien pu ・・・しそうになる。もう少しで・・・するところだった。|| たとえ危うく死にそうになるような日々を送ってきたとしても、また、このような日々も決してないわけではないのだ。死んだほうがましな日々と訳すと誤訳となる。|| この dans la mienne の前には la vie という語は書かれていないのであるが、ここでは人生のこと。 || les voyages 定冠詞の付いた複数であり、ひとつの土地に定住することの逆。放浪や流浪と解釈すると悪いイメージが不必要に混ざってしまう。être lancé と受動態で書かれており、いままで定住民族であった者が遊牧民族になってしまうような意味。「旅」と和訳すると意味が伝わらないかもしれない。

Au moment dont…
|| petit 小さいという意味ではなく、自分の好きな、愛着のあるという意味。|| ne pas que は ne que を否定する「だけというわけではない」であるのに対し、ne guère que は ne que を強調する「わずかに、それだけしかなかった」という意味。|| neutre 中立国の人。|| ceux-là ふたつ並べて書かれているものの先のほう。前者。ここでは中立国の人間たち。どの中立国の人間も、同じようなものであり、たいした違いはない。|| rehaussé de ・・・によって、一段と美しくなっている。|| dans la mesure de の許す範囲内で。|| les élans du cœur 複数で、性的なムラムラの気持ちの変動 || comment どのように学んだかと言うと、それは戦争においてであるという言い方であろうが、和訳の場合には「もちろん、戦場でいやというほど学んだのさ」などとも訳せるかもしれない。|| je n’étais pas près de l’oublier 記憶が生々しいことの反語的な表現。フランス人は会話においても反語表現がしばしば使われる。和訳の場合には、本来の意味に戻して訳すのが安全と思われる。

ルイ=フェルディナン・セリーヌ夜の果てへの旅