薬を使わないトゥレット症候群(チック症)と強迫性障害の治療 §35

Kurikiメソッド(the first edition in 2007)はトゥレット症候群(チック症)および強迫性障害を薬を使わずに治すことを目的とした理論である。この理論はこれらの病気の構造についての推論と解釈に基づいている。精神分析医を読者と想定して書かれており、一般の読者には難解であり、誤読の危険性がある。したがって、Kurikiメソッドは患者が最寄りの精神分析医により治療を受けること、患者とKurikiメソッドの間には常に精神分析医が存在することを前提とする。感情的カタルシスの爆発は強い影響を伴うため、一週間に一度、三秒間のみの実施であり、そのペースを超えた場合は過失による一種の事故である。そのような事故による一時的な精神的沈下は感情的カタルシスに関し未熟な精神分析医の責任とする。また、論理的思考力に乏しい患者には、頭の中でのトラウマ・イメージの加害者と現実世界での人物との錯覚的混同による暴力的復讐感情に関して精神分析医による個人的な説明が不足してはならない。

 

薬を使わないトゥレット症候群(チック症)と強迫性障害の治療
§35

 

感情的カタルシス (精神分析学)

カタルシスの方法
感情的カタルシスはチック症の治療、トゥレット症候群の治療の中心である。感情的カタルシスは、次に挙げる八つの理由において知性を必要とする。
(1)医者に行く手間をかける。
感情的カタルシスは、少なくとも最初の二、三回は、もよりの精神分析医とともに行なう。ひとつの病気の治療には最低の出費は節約すべきではない。カタルシスは必ず精神分析医と一緒に行なうべきであると下線を引いて書いておく。ゆっくりのペースを守るためである。精神分析医はブレーキの役目にすぎない。悪い精神分析医が逆に「行け、行け」などと爆発を煽るようなことあってはいけない。患者自身がKurikiメソッドをよく理解し、治すことへの意気込みが大切である。
まくらやクッションなどを使ったボクシングのマネは爆発しすぎであり、禁止。
ボクシングのマネの悪い点。
・悪い精神分析医が大爆発の後の害について無知であること。
・悪い精神分析医が感情のかたまりの巨大さを認識していないこと。
・悪い精神分析医が一日で治してみせようと急いでいること。

子供のチック症
子供のチック症には感情的カタルシスはしない。リビドーレベルのトラウマを発見して、子供に言葉で説明することが治療になる。興奮したら一日休む。言葉で励ます。

大人のチック症
精神的に不安定な患者には感情的カタルシスをせず、一年ぐらいの長い期間をかけて、不快判断の言語化のみで治療がなされる。しかし、特に精神的に過敏な人でない限り、大人のチック症の場合はカタルシスを行わないと感情のかたまりは減らない。感情的カタルシスは必要である。

感情的カタルシスの正統的古典的な方法
ビドーのレベルのトラウマを受けた子供時代に戻って、毎日繰り返された場面で、その時は出せなかった感情の出しなおしを実際にする。とても古典的な治療法である。トラウマのイメージと感情を言葉でしっかりと叫んで表現する。トラウマイメージと不快判断を文法的に完結した文で言語化する。それは、アスペルガーの傾向の「可能性」も少しあるからである。勿論、チック症は神経症であり、自閉症スペクトラムの症状ではない。それは多くのチック症が一過性であることから明らかである。ADHDやアスペルガーにおける意識対象の狭窄と神経症における絶縁体との関係を考えるには、自閉症スペクトラムはさまざまでありすぎる。もしも、自閉症の患者にチック症がみられる場合にも、チックの動作やチック症の《強迫性筋肉内感覚》ではなく、絶縁体、すなわち不快判断の抑圧の問題である。

(2)カレンダーの日にちに印をつける。
チック症の原因となる感情のかたまりはたいへん肥大している。カタルシスは少しずつなされる。勿論、爆発は爆発であるから、穏やかな爆発というものは不可能。したがって、できるだけ短く、三秒間のみということになる。感情が噴出し始めたら、すぐストップする。感情は、いっぺんに全部出し切ってはいけない。三ヶ月間、週一回、三秒間のみの感情的カタルシスの小さな爆発をカレンダーの日にちに丸印をつけて規則的に行なう。
カタルシスの感情は、自分の意志で故意に引き出すものなので、「まだちょっと感情が残っているから、感情的カタルシスを一発やろう」というふうなものなのである。カタルシスは、ひとりでに始まってしまうものではない。トゥレットの人は絶縁が良すぎるということが大きな感情のかたまりができる原因である。

(3)感情のかたまりをひとつの物体とみなし、その構造を理解する。
大人のチック症患者はなぜカタルシスが必要かというと、トラウマイメージの下の絶縁体の絶縁が良すぎて感情が漏れないからである。溜め込みやすいタチだからである。トラウマイメージが見えていても感情が絶縁体の下にしっかりと密封されていて、感情爆発で穴を開けないと出ないからである。トラウマイメージが見つかったときは、感情爆発でとても小さな穴をあけておいて、感情が少しずつ外へ出るようにしておく。感情のかたまりは自動車のタイヤのようなものであり、中の空気を抜こうとする場合、穴をあけないと空気は抜けない。穴のあいていないタイヤをいくら見ていても、見ているだけでは空気を抜くことはできない。トラウマの発見と説明だけで神経症が治るというフロイトの精神分析学とは大きな違いがある。


(4)大爆発をしない。
チック症の感情のかたまりは相当巨大である。感情的カタルシスは無意識の深いところのバランスをくずす。感情のかたまりの急激な摘出による害は地盤沈下の現象と同じ。カタルシスは少しずつの摘出と少しずつの回復で進められる。

(5)カタルシスが引き起こす不安感の構造を客観的に理解する。
・感情的カタルシスの爆発の直後、1分間ほどのうちに、露出した感情を再び絶縁体がふたをする。
・いままであったポテンシャルエネルギーが出てしまうので、血液寄付の後のような欠如感,不安感をしばらく感じることもある。(20分間ほど)
· カタルシスの直後の不安感は一時的なものである。精神のエネルギーのバランスが一時的にくずれたからであると冷静に認識して、横になって休めば30分ぐらいで不安感は治る。この不安感はチック症が治る過程であるが、トラウマは一度見つけたら逃げないので、大爆発が引き起こす不安感は不必要である。
・また、本当のトラウマを見つけると意図的に爆発させなくても五分後ぐらいに不安感を感じることがある。横になって休めば三十分ぐらいで不安感は治る。

(6)トラウマイメージを論理的に解釈する。
・カタルシスの最中にトラウマの内容が見え、無意識がトラウマを実はどのように解釈していたのかが論理的にわかってくる。無意識が勘違いしていたものに気がつく場合がある。カタルシスの最中に見えたイメージは極めて貴重である。新しい物、詳しい物が見えたときは、イメージについて論理的に考える。「論理的に考える」とは、推論するという意味である。
・感情のかたまりの中心に到達するために、外側の層のカタルシスが必要。外側の層の感情のほうが内側の層の感情より強いことが多いはずである。イメージと感情が玉ねぎのように層になっている。イメージが感情を包んでいる。ひとつのイメージが次のイメージを隠している。イメージに穴があくと、感情が出る。そのとき、もっと詳しいイメージが見えることがある。数日後に、別の詳しいイメージが想い浮かぶこともある。しかし、通常三層か四層しかないので、それ以上探す必要はない。
・五歳まで遡る。それ以前は論理的想像になる。感情のかたまりの中心は恐怖かもしれない。赤ちゃんのときの、毎日の、直感的に、生命的にグロテスクなものへの感情である。感情のかたまりの中心の感情だけ思い出しただけではチック症を治せない。感情を包んでいる物のイメージ、場所のイメージを見つけることが必要である。
攻撃的感情; 怒り、憎しみ、非難
受身的感情; 嫌悪、嘆き、恐怖、悲しみ

(7)トラウマの加害者を虚像の存在とし、実在の人物と切り離して考える。トラウマの加害者は患者の頭の中にいる人物であり、患者の頭の外の人物ではない。

(8)感情的カタルシスには上に挙げた事柄を全て首尾よく行なうことが要求される複雑な作業である。慎重さとともに勇気を必要とする冒険である。

治療においては患者の個人差が細心に考慮される。最小限の地盤沈下の状態の観察、それに続く回復の状態の確認には三十分ほどの時間が必要である。摘出は量的であり、限度は三秒間、強い爆発ならば一秒間で充分である。自発性はないので、強い爆発は意図的な強い爆発であり、弱い爆発は意図的に弱い爆発である。非言語コミュニケーションの欠如やアイコンタクトの回避などを承知のうえで、分析医は治療のダメージを観察する。爆発は週一回であり、三ヶ月後には燃料の量は少なくなり、強い爆発は不可能となり、地盤沈下の危険はなくなる。チック症の治療のための除反応の効果は最初の感情の爆発で明らかであるため、二回目の実施まで一週間待つことが義務付けられる。

治療の初期において、燃料が大量なため、爆発が強くなってしまう危険がある。したがって、長さを短くすることによって燃焼量を制限しなくてはならない。そうしないと、たとえ患者の精神状態がいかにも安定しているように見える場合でも必ず地盤沈下は起きてしまうであろう。爆発の強度と長さ、燃料の燃焼の量、地盤沈下の状態、これらの関係を患者自身が習得する。患者は自閉症スペクトラムに見られる特殊な身体感覚にともなうKV (Körperliche Verdrängung 身体的抑圧) の仕組みからの強迫性の消失を観察する。

チック症および強迫観念の強迫的身体感覚から強迫性が量的に減少する状態を患者は認識する。これによって、除反応が量的な作業であることを患者は知る。地盤沈下は急激な除反応の直後に起こるが、ゆっくりな地盤沈下がゆっくりな除反応とともに起こる可能性もあるので、たとえ安定性が明白であっても、チック症および強迫観念の治療は一週間の間隔を開けなくてはいけない。除反応の量的性質を充分に考慮する必要がある。