薬を使わないトゥレット症候群(チック症)と強迫性障害の治療 §05

Kurikiメソッド(the first edition in 2007)はトゥレット症候群(チック症)および強迫性障害を薬を使わずに治すことを目的とした理論である。この理論はこれらの病気の構造についての推論と解釈に基づいている。精神分析医を読者と想定して書かれており、一般の読者には難解であり、誤読の危険性がある。したがって、Kurikiメソッドは患者が最寄りの精神分析医により治療を受けること、患者とKurikiメソッドの間には常に精神分析医が存在することを前提とする。感情的カタルシスの爆発は強い影響を伴うため、一週間に一度、三秒間のみの実施であり、そのペースを超えた場合は過失による一種の事故である。そのような事故による一時的な精神的沈下は感情的カタルシスに関し未熟な精神分析医の責任とする。また、論理的思考力に乏しい患者には、頭の中でのトラウマ・イメージの加害者と現実世界での人物との錯覚的混同による暴力的復讐感情に関して精神分析医による個人的な説明が不足してはならない。

 

薬を使わないトゥレット症候群(チック症)と強迫性障害の治療
§05

 

チック症(トゥレット症候群)、強迫性障害に関してのフロイトの精神分析学

精神分析学は卑猥

精神分析学は孤立した小さな分野であり、哲学、心理学、倫理などからは切り離して扱われるものである。精神分析学は神経症の治療のみをその目的としている。精神分析学のすべての用語は神経症の治療方法の記述表現、すなわち神経症の治療の方法を理解するための比喩的表現にすぎない。神経症は、子供の、あるいは子供の頃からの、性的、および性器的な混乱から生じる病気であり、抑圧対象、および抑圧感情の意識化(除反応)により治療される。カウンセリングルームの中では、当然のこととして、話の内容は恥ずかしいものとなる。性的なことがらに関する単語、性器に関する単語を発音することに抵抗があるのが普通である。実際、精神分析学は幼児期小児期の性的性器的問題の解決であり、性的、性器的な語を用いなければならず、それがしばしば変態的とみなされることは精神分析学の宿命である。 0 歳から 5 歳までの子供のとても身体的なリビドーを問題の中心としないセラピストは存在しない。セラピストの話すことの内容に卑猥な要素が含まれるのは不可避である。

さて、フロイトにはチック症・強迫性障害は治せなかった。その理由は次の通りではないだろうか。
1. チックの動作や強迫性障害の行為を神経症の症状と思っていた。チックの動作を不随意運動であると思っていた。
2. 先天的なチックの傾向において、不快な身体的感覚が身体的に抑圧されるとは、フロイトは思っていなかった。
3. チックの動作や強迫性障害の行為にトラウマの内容の表現的意味があると思っていた。合理化による偽りの動機は症状の後に付け加えられる。
4. 神経症の原因のひとつは、幼児期の性的問題を父母との三角関係の不明瞭さにあるとしていた。
5. チック症や強迫性障害に関しても、トラウマの言語化のみで除反応になると思っていた。
6. チック症や強迫性障害の症状は抑圧の結果であると思っていた。

Kurikiメソッドでは次のようになる。
1. 神経症の症状は、ひとつの対象に対する強迫の増幅である。強迫によって強制されえるのは随意運動のみである。
· 患者が感じるチック症の症状は随意筋の中の実際の収縮のない筋肉収縮の筋肉内感覚である。チックの動作は神経症の絶対強迫に支配された随意運動である。神経症の理解は絶対強迫の身体性の理解である。意識内で、随意筋の《不動性の強迫的な考え》が身体感覚として増幅し、チックの随意運動が身体的に絶対的に強制される。チックは随意筋の存在の身体的感覚を対象とした強迫である。「ここにひとつの随意筋がある」という考え。チックの随意運動までの強迫の増幅。
· 強迫性障害の《強迫性身体感覚》は強迫的な不安として意識によって解釈される不快な身体感覚の一種である。強迫の対象は一つの物であり、意識はこの物に対しての行為を余儀なくされる。
2. 自閉症スペクトラムにおける神経症として、病的な抑圧機能は身体感覚も抑圧対象に含まれて定義される。
3. チックの動作の様態・強迫性障害の行為の様態には表現的意味はない。チックの動作や強迫性障害の行為は、意識の志向性の占拠、すなわち患者の意識の前景に大きな意識対象として位置することを目的としている。したがって、それらは患者の意識にとって迷惑で馬鹿々々しい動作・行為である必要がある。

フロイトの合理化は、象徴的な意味を伴う対象の意味を隠すことであり、症状の後から偽りの動機がでっちあげられる。
Kurikiメソッドでの《合理化》は、フロイトの合理化とは順序が逆である。 Kurikiメソッドでの《合理化》は、もっともらしい偽りの動機を伴うことにおいて、ランダムに対象を選ぶ仕組みである。たとえば、爪噛みと手洗いのどちらか一つが選択される場合、偽りの動機「爪切りを使うよりも速い」「ばい菌は健康に悪い」のうちから容易でもっともらしいほうが用いられる。まず、偽りの動機が可能であり、それから、その対象が症状として選ばれる。強迫対象に表現的、象徴的意味を探すことは誤りである。この病気の本当の原因は、強迫が抑圧の身体的道具であることである。

4. 身体感覚におけるアスペルガーの特殊性をかんがみ、幼児期における性的な不快さを身体的レベルでも検討する。
5. チック症の除反応、および強迫性障害の除反応には感情的カタルシスの爆発が必要である。
6. チック症、および強迫性障害は抑圧の病的な仕組みであり、それらの症状は抑圧の手段である。

トラウマ探し
ひとたびチック症や強迫性障害の患者が症状が身体的抑圧の仕組みであることを理解すると、二、三週間のうちに性的、性器的なトラウマを自動的に思い出すであろう。なぜならば、上層部の仕組みが意識に知られないでいるかぎりにおいて、上層部は下層部を抑圧するからである。
低級なカウンセラーは「学校の勉強」や「親の厳しさ」などと言いながら性的、性器的なトラウマを避けてしまうかもしれない。通常、性的、性器的でないような数々の不快なものは明白に不快なものとして意識化されている。抑圧とは、不快なものの抑圧により、子供は意識の中では楽しい気持ちであるということである。

自閉症スペクトラム
アスペルガーには実に様々なタイプがある。一部のアスペルガー的な子供には、ある種の心的な判断は言葉によって述べられることを必要とする。性的、性器的に不快な精神的認識が言葉による表現を与えられず、機械的に抑圧される可能性がある。また、しばしば感情表現が少ない人や、抑えられていた感情がいきなり強く出る人などがいる。たとえば、アスペルガー的な子供には他人の身体や他人による皮膚接触が極めて不快であることが多く、赤ちゃんの頃からその不快感情が表現されることなく病的に無意識内に保存、蓄積される可能性がある。トラウマのイメージは十分に具体的、可視的イメージである。抑圧はそのイメージの抑圧ではなく、イメージの中の不快感情の抑圧である。

(筆者注 : 読者の中には、筆者がとてもフロイトに傾倒していると思われる方もおられるかと思われるが、とんでもない。今日では古典となっているところのフロイト全集を辞書を引きながら全部読んだりしていたのは遠い遠い昔の一時期のこと。チック症(トゥレット症候群)や強迫性障害をもっている人たちのための極めて明白な治療理論を単に書いているだけであり、筆者自身は現在ではフロイトには全く興味がない。)