『失われた時を求めて』を読んでみる 006

              

 

マルセル・プルースト『失われた時を求めて』スワン家の方へ [006]


Françoise, mais pour qui…

|| (Ne) voilà-t-il pas que 驚きの表現。|| j’avais oublié que 何かを思い出したときに「おっと、うっかり忘れていた」は、このように大過去で言う。 || passer 死ぬ。ここでは助動詞に avoir が使われているが、l’autre nuit は、二三日前の夜という意味の、時の副詞句であり、他動詞の直接目的語ではない。|| オクターブは音楽では女性名詞であるが、人名の場合は男性の名前である。カエサルの息子の名前はオクタビアヌス・アウグストゥスだったが、音程のオクターブは、たとえばドからドまでの八個で、八番目という意味であり、ちなみに八月の語源はアウグストゥスである。|| ma fille 年寄りは若い親しい女性に対し、このように呼びかけることがある。|| Je vas フランソワーズは、語り手が既に述べたように、田舎の出身であり、方言でこのような喋り方がある。マルセル・プルーストが好きであったジョルジュ・サンドの田園小説で頻繁に使われている。|| feu かまどの火であり、当時、台所にはガスコンロや電気コンロは、まだなかった。


Ainsi Françoise et…

|| apprécier ここでは、とくに良い意味でということではなく、単に評価、考察すること。|| événements revêtaient un caractère si mystérieux … 出来事というとても漠然とした名詞に関し、どのような出来事であるかという種類を表す言い方であり、「何々の性格をもつ」というように直訳する必要はない。「何かあやしげなことを目撃したときには」|| ma tante sentait qu’elle ne pourrait pas attendre le moment où Françoise monterait《補足節の法》sentait que の後は、通常、直接法半過去でよいのだが、ここでのように条件法現在が、あるいは接続法現在が用いられることもある。si … que なので sentirait でもよかったのであるが、そうすると条件法現在がくどくなってしまうであろう。|| formidable ここでは、音が大きいこと。|| どうやら未亡人を呼ぶときには、このようにマダムのあとに亡夫の prénom をつけて呼ぶらしいのだが、定かではない。


Mais non, Françoise…

|| si 否定疑問に肯定的に答えるときの si 。気分がすぐれないのですか、と聞かれて、そのためではないという意味で、いいえ、と答えてから、気分がすぐれない日は珍しいという意味においては、そうではある、と答えた。|| passer 死ぬという意味で再び用いられた。|| sans avoir eu le temps de me reconnaître 未来形の passerai の後で、不定詞を複合形にする。複合形は時系列における順序関係とともに、その時の状態を表現するものとして扱われる。「残念ながら、ついに意識が戻ることもないままの状態のうちに」という表現。もしも sans avoir le temps de と書くと「瞬間的に」という意味になってしまう。この小説、『失われた時を求めて』の冒頭の incipit と比較できる。à peine ma bougie éteinte, mes yeux se fermaient si vite que je n’avais pas le temps de me dire : « Je m’endors. » || sonner ここでは自動詞。|| comme je vous vois この前後にはコンマがあったほうが読みやすい。 || s’en tenir à ・・・にしておく || ça sera la fille de この未来形は現在のことがらに関する推量を表す。もし聞かれるのでしたら、何々と答えるでしょうという意味で、条件法現在よりも確か。


La fille à M. Pupin…

|| la fille à M. Pupin 誰々の子供などの言い方においては、前置詞 de が用いられる。la fille à lui のように、あとに人称代名詞が続くときのみ前置詞は à となる。ここで à が用いられているのは我々読者にとって教育的ではない。 || je vous crois bien これは反語であり、ここでの意味は「まさか、そんなことはあるはずがない」ということ。|| je ne l’aurais pas reconnue 反実の条件法過去。Si elle avait été la fille à M. Pupin, je l’aurais reconnue という文が否定疑問文になったもの。「ピュパンの娘だったとしたら、私が分からなかったなんてことがありえるかしら」|| avec cela que だから || pension 寄宿舎 || ressemble de 通常は Il me semble l’avoir déjà vue と言う。プルーストは故意にこの部分の会話を変なフランス語にしているようだ。


Ah! à moins de…

|| à moins de ça レオニー叔母さんの口癖らしく、しばらく後のセリフにも出てくる。直訳するならば、ここでは省略されているが否定的な文とともに用いられ、「いくら少なくとも、それ以下ということはないはずだ」ということ。ce ne serait pas possible si c’était moins de ça の意。転じて、「なるほど、それはそうでしょう」「そうでなくってさ」の意となる。|| Il faudrait que +接続法。この言い方が「そうに違いない」という意味で用いられることは稀。|| Il n’y a pas besoin de これもフランス語としては、あまり感心しない言い方。|| chercher 情報を得ようとする || alors nous pourrions bien inf. 条件法現在|| Dès l’instant que = puisque || tout son monde グピールさんの家にお客さんがあるのですから、あの家の人たちは皆、お昼を食べに帰ってくるでしょう。|| car il commence à ne plus être de bonne heure もうそろそろ、お昼の時間ですから。直訳、早すぎるとは言えない時刻になりつつありますから。|| pressée『失われた時を求めて』の版によってはミスプリントで男性形になっているものもあるかもしれない。|| n’être pas fâché de 何々を喜ぶ、何々を望む。フランソワーズはレオニー叔母さんから解放され、階下で昼食の仕度をしたかったので、レオニー叔母さんが一人で窓の外の出来事に没頭してくれることを望んでいた。


Oh! pas avant midi…

|| 小説『失われた時を求めて』は語り手の記憶が書き綴られているという設定であるが、この場面に少年がいたようにも思えないし、たとえ、その場にいたとしても大人の会話を記憶しているとも思えないのではあるが、フィクションの設定であり、あまり追及する必要もない。|| Oh! pas avant midi フランソワーズがそろそろ昼食の時刻であると言うので、マダム・グピールの家の昼食に来る人たちは正午すぎに来ることを知っているレオニー叔母さんは自分の昼食と時間が重なることを残念に思った。|| furtif 相手に気づかれないように、こっそりと見ること。マダム・グピールの家に皆が昼食を食べに帰ってくるところを窓から見るのが好きなので、自分の昼食の時間と重なってほしくない。elle trouvait un plaisir がコンマでバラバラになっている。|| avoir renoncé à tout 人生を活動的に楽しく過ごすことをやめた。|| C’étaient les seules qui fussent ornées de sujets 直接的には文中にはないが、文脈より、主語は les assiettes plates である。 sujets は絵皿の絵の題材のこと。

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Je serais bien allée…

マルセル・プルースト失われた時を求めて