ルイ=フェルディナン・セリーヌ
夜の果てへの旅 01
昔のプラス・ド・クリシー
『夜の果てへの旅』の最初の原稿。出版された版の文章とは「人物」が異なっている。
軍隊の階級
maréchal
général
colonel
commandant
capitaine
lieutenant
major
adjudant
sergent
caporal
soldat
Ça a débuté comme ça. Moi, j’avais jamais rien dit. Rien. C’est Arthur Ganate qui m’a fait parler. Arthur, un étudiant, un carabin lui aussi, un camarade. On se rencontre donc place Clichy. C’était après le déjeuner. Il veut me parler. Je l’écoute.
«Restons pas dehors! qu’il me dit. Rentrons!»
Je rentre avec lui. Voilà.
«Cette terrasse, qu’il commence, c’est pour les œufs à la coque! Viens par ici!»
Alors, on remarque encore qu’il n’y avait personne dans les rues, à cause de la chaleur; pas de voitures, rien. Quand il fait très froid, non plus, il n’y a personne dans les rues; c’est lui, même que je m’en souviens, qui m’avait dit à ce propos:
«Les gens de Paris ont l’air toujours d’être occupés, mais en fait, ils se promènent du matin au soir; la preuve, c’est que, lorsqu’il ne fait pas bon à se promener, trop froid ou trop chaud, on ne les voit plus; ils sont tous dedans à prendre des cafés crème et des bocks. C’est ainsi! Siècle de vitesse! qu’ils disent. Où ça? Grands changements! qu’ils racontent. Comment ça? Rien n’est changé en vérité. Ils continuent à s’admirer et c’est tout. Et ça n’est pas nouveau non plus. Des mots, et encore pas beaucoup, même parmi les mots, qui sont changés! Deux ou trois par-ci, par-là, des petits…»
Bien fiers alors d’avoir fait sonner ces vérités utiles, on est demeurés là assis, ravis, à regarder les dames du café.
|| 小説の設定としてバルダミュは医学生となっているので、彼の口調は馬鹿な、ならず者の口調ではない。セリーヌの表現したかったバルダミュの口調は、パリの口語である。無口な青年がボソボソと喋る感じだ。これを出鱈目な、ひどい、乱暴な口調と解釈するとバルダミュの素朴で小さな人物像から逸れてしまう。|| セリーヌの最初の原稿は次のようなものであった。Ça a commencé comme ça. Moi, j’avais jamais rien dit. Rien. C’est Bardamu qui m’a fait parler, c’était un médecin lui aussi, un confrère. Il me rencontre Place Clichy. 冒頭の第一行目には ça が二回も使われている。それぞれ、この小説全体と最初の四ページをさす。最初の原稿では débuté ではなく commencé が使われている。もしも commencé を使うならば、私には個人的に Au commencement était la Parole が連想されてしまう。喋り言葉らしく、一貫性に欠けた時制で、短いセンテンスが続く。主人公の名前、バルダミュの Barda は兵隊一人の装具一式のこと、mu は動詞 mouvoir 「動く」の過去分詞。||
最初の原稿では、保守的なバルダミュ、反体制の「私」。
出版された原稿では、保守的なアルチュール・ギャナト、反体制の「私」。
すなわち、書き直しにより、「私」の名前をバルダミュにしたのである。「私の名前はバルダミュ、私は医学生です」とはせず、キャフェでの相手役としてアルチュール・ギャナトという人物を新しく置き、主人公の人物像は、アルチュール・ギャナトを鏡のように使って読者に知らされる。「アルチュール・ギャナトも医学生なのだ」「おい、バルダミュ、よく聞け」という書き方。
|| デトゥーシュ自身が医者であるのだが、最初の原稿では、アルチュール・ギャナトとバルダミュは二人とも医者であり、出版された版では年齢を下げて医学生になっている。|| place Clichy 小文字で始めて、場所を表現する前置詞、たとえば sur がなく、定冠詞 la も前置詞 de も付けられていない。donc 「そんなわけで」にも意味はない。 話し言葉の雰囲気を出すためであろう。プラス・ド・クリシーの東側からムーランルージュにかけて、現在ではポルノショップが並んでいるという話を聞いたことがある。1980年ぐらいまでは安全地帯に幅が 5 メートルぐらいの小さなストリップ strip-tease の小屋が 10 軒ぐらい並んでいたという話を聞いたことがある。値段はストリッパー strip-teaseuse がひとりのところは 5 フランだったという話を聞いたことがある。私の知人の新井という人はいっぺんにはじからはじまで全部見たことがあると言って自慢していたという話を聞いたことがある。|| 会話で「中に入ろう」とはキャフェの中に入るということ。ここの文章の rentrer (dans qqch) には、再びという意味はなく、entrer と同義である。|| 雄鶏は le coq、玉子の殻は la coque である。des œufs à la coque 無理にカタカナで書けば、デズーザラコックのように読む。|| 通りで友人のアルチュール・ギャナトとばったり出くわし、その辺のキャフェに入ることにする。勿論、当時は冷房はない。入り口を入って左右は通りに面したテラスになっていて、二人とも普段はガラス越しに外を見ながらテラスに坐るのが好きなのだが、この日は猛暑なので店の奥に進む。ここのテラスじゃ暑くて半熟玉子になっちゃうよ。|| 小説の冒頭を猛暑で始めるのは小説家がよく使う手だ。ところが、この後の話の筋ではバルダミュが猛烈な暑さに苦しむとは書かれていない。あたかも単なる思いつきの猛暑についてセリーヌがすぐに忘れてしまったかのようだ。|| アルチュール・ギャナトはバルダミュに冬にも同じことを言っていた。とても暑い日と、とても寒い日には人通りはなくなる。on remarque の on はバルダミュとアルチュール・ギャナトのこと。現在時制であり、先程から通りには人がいなかったのだという半過去のことに今、あらためて気がつく。既に冬にもそのようなことがあったので、「またしても」 encore が添えられる。二人は前から仲のよい友だちであり、この部分の会話には論争としての緊張はなく、『夜の果てへの旅』の過酷な暗い筋とは対照的な書き出しとして、学生生活の軽く穏やかで楽しい気分が読まれるべきであろう。|| même que 私はそのときのことを、そのとき彼が言った言葉のですら一言一句、鮮明に思い出すことができる。|| あたかもその冬の日の彼の喋っている情景をバルダミュが思い出しているかのように始まりながらも、台詞の終りには現在になっている。アルチュール・ギャナトはバルダミュと仲が良く、ここでの人通りについての考えについても二人は一致している。次に見られるパリの人々に関するアルチュール・ギャナトの考え、皆だらだらと生活し何も進歩しないという考えもバルダミュの悲観的な考え方と一致しているので、この二人の対話には対立したものではなく、読者が二人の論争を想定し、対立する点を探しながら読もうとすると読めなくなる。唯一の対立といえば、アルチュール・ギャナトはフランスに誇りを感じているのに対し、「私」はフランスは国境こそあれ、フランス人の国として確固として存在しているわけではないと感じているというところだ。|| se promènent 用もなく通りをただうろうろしている、外にいる、という意味であり、健康的な散歩とは違う。|| コーヒーをカップ一杯は un café 、二人で二杯は deux cafés となるのだが、café crème の複数は cafés crèmes が正しいようだ。|| bock 昔はこう呼んだらしいが、現在ではキャフェでコップのビールを飲むときには un demi。しかし、自宅に生ビールのプレッションの樽と機械を置いている人はいないであろうから、家で bock を飲むというのは変である。単に普通の瓶入りのビールをコップに入れて飲むという量的な意味であろう。|| le siècle de la vitesse 20世紀は交通機関の機械など、様々なものの速度が増すことを美徳とする考え方で進歩した。|| 代名詞 ils は、パリの人々のこと。|| à regarder は demeurés に続いている。|| des petits… 台詞が途切れ、この後にどのような語が続いていたかは読者には不明となる。|| les dames du café 最初の原稿の写真を見ると les prostituées と書いてある。|| 出版の際に削除された部分がある。なぜ娼婦たちは椅子に坐っているのだ。坐っていたら商売道具のお尻が客に見えないじゃないか。Pourquoi sont elles assises aussi, puisque c’est leur derrière qu’elles veulent nous prêter? C’est pas commode.
Après, la conversation est revenue sur le Président Poincaré qui s’en allait inaugurer, justement ce matin-là, une exposition de petits chiens; et puis, de fil en aiguille, sur le Temps où c’était écrit.
«(Arthur) Tiens, voilà un maître journal, le Temps!» qu’il me taquine Arthur Ganate, à ce propos. «Y en a pas deux comme lui pour défendre la race française!
— (Bardamu) Elle en a bien besoin la race française, vu qu’elle n’existe pas!» que j’ai répondu moi pour montrer que j’étais documenté, et du tac au tac.
||この場面の時代設定が新聞で表される。第一次世界大戦は、1914-1918。レイモン・ポワンキャレがフランス大統領だったのは、1913-1920。パリの町の人通りのこと、フランス大統領が小型犬の品評会の開会に出席するということなど、戦争とはまったく関係ない、のんびりとしたフランス社会の様子を書いている。因みに、ポワンキャレのスペルはRはひとつだけである。|| de fil en aiguille 話題が知らず知らずのうちに移っていく様子。|| taquine アルチュール・ギャナトは、愛国的な保守であり、「私」を前に、フランスを持ち上げて議論を吹っかけてくる。「フランスをみんなで盛り上げよう」「ないに等しいから、せいぜい盛り上げないとね」|| Elle en a bien besoin… = La race française a bien besoin d’être défendue par un journal comme celui-ci. || documenté その件に関しては自分だってちゃんと意見を持っているのだぞ。一発、論争を始めようではないかという物腰。それまで一言も喋らなかった「私」がアルチュール・ギャナトの挑発で喋り始めることになる。|| répondre du tac au tac 言い返す。
— (Arthur) Si donc! qu’il y en a une! Et une belle de race! qu’il insistait lui, et même que c’est la plus belle race du monde et bien cocu qui s’en dédit!»
Et puis, le voilà parti à m’engueuler. J’ai tenu ferme bien entendu.
— (Bardamu) C’est pas vrai! La race, ce que t’appelles comme ça, c’est seulement ce grand ramassis de miteux dans mon genre, chassieux, puceux, transis, qui ont échoué ici poursuivis par la faim, la peste, les tumeurs et le froid, venus vaincus des quatre coins du monde. Ils ne pouvaient pas aller plus loin à cause de la mer. C’est ça la France et puis c’est ça les Français.
— (Arthur) Bardamu, qu’il me fait alors gravement et un peu triste, nos pères nous valaient bien, n’en dis pas de mal!…
|| Si 前文でのバルダミュの否定文「フランス人なんて呼ばれるものは存在しない」に反対する肯定。|| cocu は罵倒語。Cochon qui s’en dédit 僕が後日考えを変えることなど絶対にないぞ。武士に二言はない。自分の言ったことをあとになってひるがえす奴はブタだ、という言い回しがある。(Cf., Couillon qui s’en dédit; モーパッサン La Confession de Théodule Sabot)。アルチュール・ギャナトの愛国的な台詞。|| parti = il est parti (c’est parti)|| dans mon genre 特別ということではなく。例外的ではなく。これを「僕のようなタイプの」と訳すと誤訳となる。以下、バルダミュがフランス人について述べることがらは自分自身も含めての話である。「私」はフランス国民という集合をしっかりと確立した立派なものだとは思っていない。|| transi 凍えた || Bardamu ここで初めて主人公の名前が対話の相手によって読者に知らされる。|| qu’il me fait、地の文。この faire は dire の代用。突如、むしろアルチュール・ギャナトのほうが落ち着いた性格の人物として書かれ始める。それに対し、語り手であるところのバルダミュが興奮しはじめる。冒頭に、自分は最初は黙っていたが、アルチュール・ギャナトが喋らせたのだと書かれていたのは、このへんのこと。|| nos pères nous valaient bien 「我々にとって」ではなく、「我々と同じほど」という同等比較。過去においてフランスの国民がどのように形成されたかについてのバルダミュの悪口に対するアルチュール・ギャナトの反論。
— (Bardamu) T’as raison, Arthur, pour ça t’as raison! Haineux et dociles, violés, volés, étripés et couillons toujours, ils nous valaient bien! Tu peux le dire! Nous ne changeons pas! Ni de chaussettes, ni de maîtres, ni d’opinions, ou bien si tard, que ça n’en vaut plus la peine. On est nés fidèles, on en crève nous autres! Soldats gratuits, héros pour tout le monde et singes parlants, mots qui souffrent, on est nous les mignons du Roi Misère. C’est lui qui nous possède! Quand on est pas sages, il serre… On a ses doigts autour du cou, toujours, ça gêne pour parler, faut faire bien attention si on tient à pouvoir manger… Pour des riens, il vous étrangle… C’est pas une vie…
— (Arthur) Il y a l’amour, Bardamu!
— (Bardamu) Arthur, l’amour c’est l’infini mis à la portée des caniches et j’ai ma dignité moi! que je lui réponds.
— (Arthur) Parlons-en de toi! T’es un anarchiste et puis voilà tout!
|| まったくその通りと反語的に言う。|| ils nous valaient bien! バルダミュの目にはフランス人たちは、従順すぎて、こそこそとして、だらしなく、不幸の大魔王の言いなりになっているだけに見える。|| changer de+名詞複数、は自動詞で新しい別のそれと取り替えるという意味ではあるが、日本語のように、自分が変わるのか、物を別な物に交換するかの区別をすると文意が伝わらない。changer の日本語訳における、変えるのか、変わるのか、取り替えるのか、の区別を無視して読む必要がある。ここの文意は、「僕たちフランス人は昔とぜんぜん変わっていないんだ。靴下も偉い連中も考え方も、なにもかも昔のままだ」ということ。フランス人は、いつの時代も、だらしないのさ。|| ou bien si tard 次にコンマが打たれているので si…que の構文ではない。したがって、si c’est si tard 「あるいは、もし変わったとしても、遅すぎるので、変わらないのと大差はない」の意であり、たとえば on dirait que ça n’en vaut plus la peine. のような文が続く。|| on en crève nous autres、この nous autres は目的語ではなく、私たち on のこと。ここの台詞での文意の主語は「フランス人たちは」である。俺たちは何にでも、はい、はい、と言うことをきくようにできていて、結局はそのような態度が仇となり死んでいくのさ。|| soldats gratuits… 犬死にしていく兵士たち。「皆さんは、とても立派な英雄でした。皆さんが英雄です」と褒めるだけで済む。|| mots qui souffrent 国民は猿なのだけれど、フランス人独特の属性は良く言葉を話すということであり、したがって、もしもフランス人が苦しむならば、それは言葉というもの自体が苦しんでいるに過ぎないということになる。反抗的な言動は禁止。|| mignons du roi アレクサンドル・デュマ父の王妃マルゴにはアンリ三世がホモセクシュアルであったと書いてある。若い男性が香水をつけて踊っていたりしたらしい。 Le roi Misère を書いた Paul Saunière は、アレクサンドル・デュマ父の秘書をしていた。 || sage 子供が親の言いつけに従って「良い子」である状態。言うことを聞かなかったら首を絞める。|| si on tient à pouvoir manger… 餌が欲しけりゃ従順でいろ。|| アルチュール・ギャナトによってアナキストと呼ばれたバルダミュがこのような言動の直後に自主的に軍隊の行進に加わっていく。|| バルダミュの反体制的な心には保守的なアルチュール・ギャナトのいきなり口にした愛というような単語はただ虚ろに響く。愛は無限と言われているが、畢竟、頭を撫でられて喜ぶプードル程度の愛さ。哲学的な誇りがあるから、愛などという宗教的な語を用いて云々したくない。バルダミュが、この場面をいかにも反体制の学生らしく、言葉の上でだけの議論をしているように書かれている。意図的に彼らの言葉を極めて表面的にし、よく理解された概念での思索による論争とは無縁のものとしている。次に続く文脈より、ここでの愛という語が宗教的な意味合いを含むと解釈するのが妥当となる。
Un petit malin, dans tous les cas, vous voyez ça d’ici, et tout ce qu’il y avait d’avancé dans les opinions.
— (Bardamu) Tu l’as dit, bouffi, que je suis anarchiste! Et la preuve la meilleure, c’est que j’ai composé une manière de prière vengeresse et sociale dont tu vas me dire tout de suite des nouvelles: LES AILES EN OR! C’est le titre!…»
Et je lui récite alors:
Un Dieu qui compte les minutes et les sous,
un Dieu désespéré, sensuel et grognon comme un cochon.
Un cochon avec des ailes en or qui retombe partout,
le ventre en l’air, prêt aux caresses,
c’est lui, c’est notre maître.
Embrassons-nous!
|| アルチュール・ギャナトは論争を挑発して楽しむ。アルチュール・ギャナトに挑発されてバルダミュが喋り始め、自作の詩まで披露してしまう。|| Un petit malin 地の文。論争をしたいなどとは思っていないバルダミュを挑発してくるアルチュール・ギャナトの狡さ。|| vous voyez ça d’ici アルチュール・ギャナトの挑発の物腰に読者はすぐに気がつくはずだ。「想像できる」|| avancé 新しい。アナキストという語は当時はまだ新しい語であり、学生にとって意味は分からなくとも使うとカッコイイ語であったのだろう。「お前はアナキストだ」などと指摘しながら楽しく話をする元気な青年の様子。|| Tu l’as dit その通りだ。|| dire des nouvelles あまりの素晴らしさに驚く。きっと、気に入るだろう。|| バルダミュは、自分で作った反体制的な詩を披露する。sous と partout と nous に韻が踏んである。|| un Dieu désespéré通常、キリストなどの神は無冠詞であり、定冠詞や不定冠詞は付かない。ここでは単数の不定冠詞が付いているが、ギリシャ神話には初登場の神には不定冠詞が付けられ、そのなかには失意とともに途方に暮れた神も出てくることなどを念頭に置くとよいかもしれない。|| バルダミュはアナキストと指摘され、はい、そのとおり、アナキストでございますと言って、多くのフランス国民が盲目的に信奉している国家・政府・社会を罵倒する詩をここで披露する。立派な金の羽を付けてはいるが、実のところは私欲を肥やし、下劣な打算から国民を動かし、失敗ばかりしているというような意味か。第二文の頭の Un cochon は前文の最後の comme un cochon の同格語であり、失望し好色でブーブー不平を言う振る舞いの形容であり、ここでの神が直接的に豚の姿をしていると言っているのではない。|| compte les minutes et les sous 分刻みにお金がチャリンチャリンと溜まっていく様子を見る。|| partout この副詞は、いたる所でという意味ではなく、「・・・してばかりいる」という意味。|| Embrassons-nous! キスをするということよりも「よかったね、おめでとう」というような意。
— (Arthur) Ton petit morceau ne tient pas devant la vie, j’en suis, moi, pour l’ordre établi et je n’aime pas la politique. Et d’ailleurs le jour où la patrie me demandera de verser mon sang pour elle, elle me trouvera moi bien sûr, et pas fainéant, prêt à le donner.
Voilà ce qu’il m’a répondu. Justement la guerre approchait de nous deux sans qu’on s’en soye rendu compte et je n’avais plus la tête très solide. Cette brève mais vivace discussion m’avait fatigué. Et puis, j’étais ému aussi parce que le garçon m’avait un peu traité de sordide à cause du pourboire. Enfin, nous nous réconciliâmes avec Arthur pour finir, tout à fait. On était du même avis sur presque tout.
|| アルチュール、つまり最初の原稿でのバルダミュは戦争中の国家体制に従う気持ちをもっていた。|| ナポレオン・ボナパルトが第18部隊への鼓舞の言葉に “Brave 18e, l’ennemi ne tient pas devant toi” というものがある。生きるということと矛盾している。|| nous と on が混ざった文。|| soye 接続法現在は通常は soit と書く。|| garçon キャフェの給仕。|| ému は悪いことの場合にも用いられる語。バルダミュは自分が置いたチップのためにギャルソンが自分を貧乏人として扱ったように見えて、気分を害した。議論でバルダミュは気が高ぶっていたのであり、同じ勢いで軍隊に参加してしまったようなところもあるのかもしれない。|| nous nous réconciliâmes avec Arthur、この nous はバルダミュとアルチュールのことである。文法的には勿論正しくない。
— (Bardamu) C’est vrai, t’as raison en somme, que j’ai convenu, conciliant, mais enfin on est tous assis sur une grande galère, on rame tous à tour de bras, tu peux pas venir me dire le contraire!… Assis sur des clous même à tirer tout nous autres! Et qu’est-ce qu’on en a? Rien! Des coups de trique seulement, des misères, des bobards et puis des vacheries encore. On travaille! qu’ils disent. C’est ça encore qu’est plus infect que toute reste, leur travail. On est en bas dans les cales à souffler de la gueule, puants, suintants des rouspignolles, et puis voilà! En haut sur le pont, au frais, il y a les maîtres et qui s’en font pas, avec des belles femmes roses et gonflées de parfums sur les genoux. On nous fait monter sur le pont. Alors, ils mettent leurs chapeaux haut de forme et puis ils nous en mettent un bon coup de la gueule comme ça: «Bandes de charognes, c’est la guerre! qu’ils font. On va les aborder, les saligauds qui sont sur la patrie n° 2 et on va leur faire sauter la caisse! Allez! Allez! Y a de tout ce qu’il faut à bord! Tous en chœur! Gueulez voir d’abord un bon coup et que ça tremble: Vive la Patrie n°1! Qu’on vous entende de loin! Celui qui gueulera le plus fort, il aura la médaille et la dragée du bon Jésus! Nom de Dieu! Et puis ceux qui ne voudront pas crever sur mer, ils pourront toujours aller crever sur terre où c’est fait bien plus vite encore qu’ici!»
|| que j’ai convenu, conciliant は台詞と台詞の間に挟まれた地の文。|| à tour de bras 一生懸命に || ガレーは奴隷がオールを漕ぐ大きな船。(現代では、鉄道のストライキの際などでの乗客の辛い状態を表現するときに使う語)。|| 否定文で venir に不定詞が続くと、否定が強調される。来るという意味はない。 || clou 化膿した腫れ物。釘ではない。|| tirer オールを漕いで船を進める。|| tout nous autres は tirer の目的語ではなく、être assis の主語。自分たち自身のことで、船の甲板にいる偉い人たちと区別される。nous autres と nous autres の強調には tous ではなく tout が用いられる。|| qu’est-ce qu’on en a? その代償として何かを得るものがあるのか。|| trique 棍棒 || bobard、政治家などがつくウソ || vacherie、人に対する酷い扱い。 || On travaille! 命令形の一種、「おまえたち、さあ、働け」|| この qu’est は qui est のこと。|| infect 臭い、ひどい。|| leur travail 甲板の上にいる偉い人たちが「労働」と呼んで、人々に強制しているもの || cale 船底の船倉 || souffler de la gueule 口でハアハア息をして、あえぐ。|| suintant 血のにじむような。on が文意において複数であるため、形容詞が複数になっている。|| rouspignolles = roubignoles 睾丸 || pont 船のデッキ || maîtres et qui···、この et は続く関係節をしつこく強調するものであり、 maîtres qui に等しい。|| ne pas s’en faire、気にしない。これは決まったフレーズなので en は常にそのまま en で使われる。|| On nous fait monter、前後の文脈においては ils nous font monter となるはずのもの。|| charogne 罵倒語|| qu’ils font 台詞に対し、これは地の文。···と彼らは言う。|| saligaud 罵倒語 || la patrie はナショナリズムにおける国家であり、直前のアルチュールの台詞に「もし国家が僕に血を流すことを望むならば云々」とあった。ここでガレー船の奴隷のイメージ、海賊の海戦のイメージにおいて、国家を船に譬えている。 patrie n° 2 vs patrie n° 1 は、海賊船 n° 2 vs 海賊船 n° 1 であり、国家 n° 2 vs 国家 n° 1 のことである。|| aborder 敵に攻撃を開始する。敵船に接舷し攻撃をしかける。|| leur faire sauter la caisse 彼らを殺す。|| à bord、船上には || tous en chœur 本来は合唱の際に声をそろえて「皆さん、ご一緒に」という意味であり、ふざけた言い方がなされている。|| Gueulez voir d’abord un bon coup et que ça tremble まず皆で叫んでみて、この船がどのぐらい振動するかを見ようではないか。Gueulez voir などというフランス語はないが、これをひとかたまりの語として言ってから、二つの直接目的補語が並んでいる。|| dragée 糖衣のボンボン。飴玉を一個差し上げます。|| du bon Jésus 多分、昔、日曜日の朝、教会でのミサに参列した子供は飴玉が一個もらえたというようなことがあったのであろう。キリストの形をしたボンボンというようなものは私は見たことがない。|| crever 死ぬ
— (Arthur) C’est tout à fait comme ça! que m’approuva Arthur,
décidément devenu facile à convaincre.
Mais voilà-t-y pas que juste devant le café où nous étions attablés un régiment se met à passer, et avec le colonel par-devant sur son cheval, et même qu’il avait l’air bien gentil et richement gaillard, le colonel! Moi, je ne fis qu’un bond d’enthousiasme.
— (Bardamu) J’vais voir si c’est ainsi! que je crie à Arthur, et me voici parti à m’engager, et au pas de course encore.
— (Arthur) T’es rien c… Ferdinand! qu’il me crie, lui Arthur en retour, vexé sans aucun doute par l’effet de mon héroïsme sur tout le monde qui nous regardait.
Ça m’a un peu froissé qu’il prenne la chose ainsi, mais ça m’a pas arrêté. J’étais au pas. «J’y suis, j’y reste!» que je me dis.
— (Bardamu) On verra bien, eh navet! que j’ai même encore eu le temps de lui crier avant qu’on tourne la rue avec le régiment derrière le colonel et sa musique. Ça s’est fait exactement ainsi.
|| バルダミュの友人であるアルチュールは容易に納得する。体制に対する嫌悪を表したバルダミュの発言とそれに続く軍隊の行進への喜びは矛盾しているが、セリーヌの最初の原稿ではここでの発言はバルダミュの聞き手、すなわち語り手の発言になっているものと想像される。出版された文章の読者には不可解であるまま、バルダミュは軍隊に加わってしまう。最初の原稿ではバルダミュは保守的であり、語り手は権威を嫌う側であったものが、手直しされた版では右翼的なアルチュールを登場させ、バルダミュが語り手となり、ところが、バルダミュは体制を嫌う発言をした口も渇かぬうちに軍隊に飛び入りしてしまう。|| (Ne) voilà-t-il pas que 直説法、 何かの突然の出現に驚いたときの芝居がかった表現。|| se met à 過去の文脈のなかで、ここだけ動詞の現在が使われている。「・・・し始める」という言い方は、軍隊はそれまでも行進していたのであり、そこに止まって休んでいた軍隊が移動を再開したのではないのであるが、キャフェの内部から表を見る側の人間には、軍隊が前を通り始めたという言い方は茶化した響きとともに可能である。|| J’vais voir si c’est ainsi !「はたしてそのようであるかどうかを確かめてやる」などと si を訳すと誤りとなる。文脈としても意味をなさない。たとえば英語ならば、なにかすごいものを見たときに言う How about that! という言葉をこれならどうですかと疑問文で訳してしまうようなものである。たとえ当時の人間は馬は見慣れているとしても、突然、馬のヒヅメのパカパカする音とともに軍隊が行進してきたのだから、そこには華やいだ興奮があるはずだ。感嘆符がついて「おお、そう来たか。そっちがそう来るんなら、受けて立とうじゃないか!」というような意味であり、その場合は、この voir si は、何々かどうかを確かめるという意味ではなく、この二単語は離れている。それまで黙っていた「私」が真面目で保守的なアルチュールに対抗してアナキスト的なことを出鱈目にベラベラと喋り始め、je n’avais plus la tête très solide、そんな時に軍隊がキャフェの前を通る。アルチュールが止めるのも聞かずにバルダミュは軍隊に加わっていく。体制に反抗的なバルダミュが軍隊に飛び入りするのは実に衝動的であった。folio版の27ページに je m’étais embarqué d’enthousiasme… Je l’avoue.という文がある。|| me voici parti、この parti は形容詞。me voici は、自分がそのような状態であるという言い回し。|| m’engager 入隊する || encore 入隊の希望を告げに行く際に「おまけに、しかも」走って行ったのであったということ。 || au pas de course 走って || T’es rien c… は rien con である。この rien は俗語的な副詞で強調の「とても」であり、ne rien que ではない。|| 主人公の名前がアルチュールの台詞の中で読者に伝えられると同時にバルダミュという名が苗字であることが分かる。|| en retour その一方で || qu’il prenne la chose ainsi、アルチュールはバルダミュの軽はずみな行動が周囲の人々に英雄的な印象を与えていたことに憤っていた。喜ぶはずのアルチュールのそのような態度に対し、バルダミュは不満足であった。|| au pas バルダミュは軍隊に追いつき、すでに兵隊たちの行進の歩調にそろえて歩いていた。|| J’y suis, j’y reste! 1855年セバストポルのマラコフの戦いでマクマオンが言った言葉。フランスの南東、ボルドーの南のほうにセバストポルというところがあって、そこにマラコフの砦とかいう塔があったのだが、ロシアが占領していた。軍人だったころのマクマオンが軍隊の先頭に立って指揮をして、沢山の兵隊が死んだのだが、ついにマラコフの砦を取り返した。砦の上でサーベルを立てたり、旗を立てたりしているときに、仲間だったイギリス軍の兵隊の一人が走ってきて、「ここは危険です。地雷がたくさん仕掛けてあります」と言ったのだが、軍人マクマオンは勇ましく「ワシは一歩たりとも動かんぞ」と言った。それ以後、この言葉はフランスの軍人のモットーとなった。そのマクマオンは、のちに大統領となる。|| On verra bien 僕が正しいってことは、そのうち分かるぞ。|| on tourne la rue avec le régiment この on はバルダミュと軍隊とを合わせて言っているのであるから、軍隊と一緒にと付け加えるのは変であるが、セリーヌはこのような口語的な表現でバルダミュに語らせているので、読者はそれに慣れる必要がある。|| navet 罵倒語
Alors on a marché longtemps. Y en avait plus qu’il y en avait encore des rues, et puis dedans des civils et leurs femmes qui nous poussaient des encouragements, et qui lançaient des fleurs, des terrasses, devant les gares, des pleines églises. Il y en avait des patriotes! Et puis il s’est mis à y en avoir moins des patriotes… La pluie est tombée, et puis encore de moins en moins et puis plus du tout d’encouragements, plus un seul, sur la route.
Nous n’étions donc plus rien qu’entre nous? Les uns derrière les autres? La musique s’est arrêtée. «En résumé, que je me suis dit alors, quand j’ai vu comment ça tournait, c’est plus drôle! C’est tout à recommencer!» J’allais m’en aller. Mais trop tard! Ils avaient refermé la porte en douce derrière nous les civils. On était faits, comme des rats.
|| plus qu’il y en avait···、この plus はプリュースと読む。|| 副詞 dedans 通りの両側に並ぶ建物の内部から、建物の窓辺からの意。前置詞ではない。 civil 兵役中ではない、一般市民の男性。 des 不定冠詞複数。|| des terrasses、テラスから、de + les 。通りに面したラテスとは、キャフェのテラスのことであり、この単語は既に小説の冒頭で前出している。|| pleine église 教会でミサが行われている最中に大勢の人々の真ん中からという意味。ミサは日曜日の午前中に行われるものであり、先ほどのプラス・ド・クリシーの場面が昼食後であったのに対し、時間の経過が故意に無視されて書かれ、この行進がさらに続き、次の章では、いつの間にかドイツのほうの戦場に到達してしまうことにもなる。市民たちが軍隊のうしろで町の門を閉めてしまうのだが、もちろんそのような門など存在しない。夢を見ているような、非現実的な象徴的なイメージである。|| il s’est mis à y en avoir moins de… 何々の数がだんだん減り始めた。il y a が変化しているフレーズ。|| plus un seul 一人もいなくなる || nous この部隊の兵隊のこと。まわりを見渡しても兵隊たち自身だけになってしまった。|| que je me suis から ça tournais までは台詞ではなく、地の文。|| tourner こんなふうになる || c’est plus drôle! これは c’est pas drôle と同じ意味。「これはひどい。冗談じゃない」|| tout à recommencer ! を最初から再び始めるという意味で訳すと誤り。感嘆詞がついて「こりゃ、ダメだ」「万事休す」という意味の表現。|| la porte この門は戸は象徴的であり、さらに小説に幻覚のような効果を与える。|| en douce これを「静かに、ゆっくりと」と訳すと誤り。douce は名詞であり、「知られないうちに」という意味。|| les civils は文の主語 ils のこと。|| On était faits 万事休す。一巻の終り。
Une fois qu’on y est, on y est bien. Ils nous firent monter à cheval et puis au bout de deux mois qu’on était là-dessus, remis à pied. Peut-être à cause que ça coûtait trop cher. Enfin, un matin, le colonel cherchait sa monture, son ordonnance était parti avec, on ne savait où, dans un petit endroit sans doute où les balles passaient moins facilement qu’au milieu de la route. Car c’est là précisément qu’on avait fini par se mettre, le colonel et moi, au beau milieu de la route, moi tenant son registre où il inscrivait des ordres.
Tout au loin sur la chaussée, aussi loin qu’on pouvait voir, il y avait deux points noirs, au milieu, comme nous, mais c’était deux Allemands bien occupés à tirer depuis un bon quart d’heure.
|| キャフェの表を軍隊が通り、それに入隊して戦地に向かう。戦地に向かっていたのだから戦地に着くのであるが、そこが何処なのかは書かれていない。着いた土地に着いたわけだ。「彼ら」は「私たち」に馬に乗らせていたが、二ヶ月たった時に徒歩になった。«au bout de» という前置詞句の時間的な用法。この小説のタイトルも夜の終り来るはずの朝を求めての旅と読める。|| on y est 「到着する」「そこにいる」という意味とともに、ものごとの成り行きのなかに完全にはまり込んでしまった状態を表す。|| là-dessus 馬の上 || 過去分詞で remis à pied と書いてあるが、ils nous ont の省略。通常この語は単に徒歩にするということではなく、兵隊への何かの罰としての処分という意味があり、そこで次の行は「罰のように装っているが、たぶん本当のところは費用が掛かるからだろう」という意味にもなる。同時に、il nous mis à pied は軍隊の移動が終わること、目的地に到着したことを意味するのでもあるのだが、右も左も分からぬまま、ただ馬から降りろという命令に従うことのみである。つまり、到着したという気持ちは兵隊にはない。主人公にとっても読者にとっても非常に狭い視野のなかで話が進んでいく。|| ある朝、大佐が馬に乗ろうとした時、副官(ordonnance 小間使いの兵卒のこと)が姿をくらましていることが発覚した。馬が消えていることにより、副官の脱走が分かったのだ。脱走した兵士は見つかると死刑となる。文頭の enfin は、「ついに」ではなく、「さて」のように訳される。|| Car、なぜ副官が脱走したかというと、きっと大佐が道の真ん中にいるのが好きだったからであろう。副官が脱走したので、こんどはバルダミュが副官の代わりをする。その仕事とは、道の真ん中には机はないので、命令を記録する帳面(registre)を大佐が書いているあいだ中、じっと下から支えて持っているというものだ。|| au milieu de la route が繰り返し書かれている。長い道程の中間地点ではなく、道幅の真ん中、並木の陰にもならず、敵からむき出しで見えてしまう位置の意。|| 機関銃の弾丸が飛び、傍らを通過することに passer という自動詞を用いられている。|| se mettre là (道の真ん中に)腰を落ち着ける。|| la chaussée、道(route)の端ではなく、道の中央、車が通る部分。|| mais この場合は驚きを表す接続詞であり、「しかし」という意味はない。|| 国名からの形容詞、その国の言語などの場合は小文字で始める。その国の国民を指す場合は大文字で始める。|| bien occupé à しっかりと忙しく働くこと。|| tirer (sur) 自動詞で、発砲するの意。|| un bon quart d’heure たっぷり15分以上も ||
Lui, notre colonel, savait peut-être pourquoi ces deux gens-là tiraient, les Allemands aussi peut-être qu’ils savaient, mais moi, vraiment, je savais pas. Aussi loin que je cherchais dans ma mémoire, je ne leur avais rien fait aux Allemands. J’avais toujours été bien aimable et bien poli avec eux. Je les connaissais un peu les Allemands, j’avais même été à l’école chez eux, étant petit, aux environs de Hanovre. J’avais parlé leur langue. C’était alors une masse de petits crétins gueulards avec des yeux pâles et furtifs comme ceux des loups; on allait toucher ensemble les filles après l’école dans les bois d’alentour, où on tirait aussi à l’arbalète et au pistolet qu’on achetait même quatre marks. On buvait de la bière sucrée. Mais de là à nous tirer maintenant dans le coffret, sans même venir nous parler d’abord et en plein milieu de la route, il y avait de la marge et même un abîme. Trop de différence.
|| peut-être que 口語のみの言い方であり、通常は que をはさまずに文が続く。|| 実際にルイ=フェルディナン・デトゥーシュは1907年、13歳の頃、一年間ドイツの Hanovre で語学学習のホームステイをさせられた。両親は彼が語学に強くなり商人になることを望んでいたらしい。ちなみに、1909年には一年間、イギリスの学校にも通っていた。|| バルダミュは子供の頃に過ごしたドイツでの楽しい生活を思い出す。|| arbalète、ウィリアムテルが使ったような形の弓矢。|| même 子供にとっては高価といえる4マルクも払って。|| 甘いビールとは、たぶんマルツビア Malzbier のことであろう。|| dans le coffret、いきなり、一斉に、突然に。|| 空白の部分 marge と 深淵 abîme は、どちらも異なる二つのものを大きな隔たりを表す。|| de là à nous tirer、ドイツでの楽しい日々(là)と発砲してくるという行為(inf.)の間には。
[012]
La guerre en somme c’était tout ce qu’on ne comprenait pas. Ça ne pouvait pas continuer.
Il s’était donc passé dans ces gens-là quelque chose d’extraordinaire? Que je ne ressentais, moi, pas du tout. J’avais pas dû m’en apercevoir…
Mes sentiments toujours n’avaient pas changé à leur égard. J’avais comme envie malgré tout d’essayer de comprendre leur brutalité, mais plus encore j’avais envie de m’en aller, énormément, absolument, tellement tout cela m’apparaissait soudain comme l’effet d’une formidable erreur.
«Dans une histoire pareille, il n’y a rien à faire, il n’y a qu’à foutre le camp», que je me disais, après tout…
Au-dessus de nos têtes, à deux millimètres, à un millimètre peut-être des tempes, venaient vibrer l’un derrière l’autre ces longs fils d’acier tentants que tracent les balles qui veulent vous tuer, dans l’air chaud d’été.
Jamais je ne m’étais senti aussi inutile parmi toutes ces balles et les lumières de ce soleil. Une immense, universelle moquerie.
|| ここでの不定代名詞 on は文脈において je として解釈されるが、「まともな人間には」「常識では」などのような動作主とともに受動態で解釈することも可能である。|| Ça ne pouvait pas continuer. ひとつの異変として、一過性であるはずである。実際は、その状態がずっと続いていたのであるから条件法過去で Ça n’aurait pas pu continuer. と書くべきところではないだろうか。 || il se passe quelque chose de adj. 非人称、形容詞が続いて、そのような状態になっている、そのようなことが起こる。|| extraordinaire は良い意味をもつ形容詞。私が気がつかないでいるような、私には思いもよらないような、何かよほど良いことがあるのだろう。|| 何々すべきという意味ではなく、論理的な確信をおびた推量、何々に違いないの意味での devoir の否定形は違和感を伴う場合があるかもしれない。「私はそれに気づかなかったに違いない」の意であるが、J’ai dû ne pas m’en être aperçu. などと変な言い方をしたくなってしまうが、そうは言わない。|| 文が否定文の場合は toujours ではなく jamais が用いられるのが普通であり、通常、位置も副詞は助動詞と過去分詞の間に入る。もちろん、セリーヌは故意に変則的に書いている。ちなみに、toujours pas は予想しているもの、起こるべきものがいまだに起こっていないことを持続の意を含んで表す。|| tellement 文頭で単独に用いられ、原因を述べる。ここに comme を使うと、直後の comme と重なり、しつこくなる。|| formidable は現代では良い意味で用いられる形容詞であるが、辞書には訳としてここでのような悪い意味のほうが先に載っている。|| histoire やっかいな状況 || se dire 思う || tempe こめかみ。|| tentant 形容詞。激しい恐怖のなかで一瞬にして殺されてしまうことへの悪魔的な誘惑という解釈が可能。|| 動詞 trancent の主語は les balles || 動詞 tracent や veulent は時制の一致において、このような現在ではなく半過去になるのが普通である。|| nos têtes, vous tuer 人称代名詞の混用 || inutile ここでは、この形容詞を「場違い」と訳すこともできるように思える。|| les lumières de ce soleil このように複数で書くと外のギラギラする太陽光線 rayons の意味であり、単数で書くと部屋のカーテンを開けたときに部屋が明るくなるというような意味での日光を表す。
Je n’avais que vingt ans d’âge à ce moment-là. Fermes désertes au loin, des églises vides et ouvertes, comme si les paysans étaient partis de ces hameaux pour la journée, tous, pour une fête à l’autre bout du canton, et qu’ils nous eussent laissé en confiance tout ce qu’ils possédaient, leur campagne, les charrettes, brancards en l’air, leurs champs, leurs enclos, la route, les arbres et même les vaches, un chien avec sa chaîne, tout quoi. Pour qu’on se trouve bien tranquilles à faire ce qu’on voudrait pendant leur absence. Ça avait l’air gentil de leur part. «Tout de même, s’ils n’étaient pas ailleurs! — que je me disais — s’il y avait encore eu du monde par ici, on ne se serait sûrement pas conduits de cette ignoble façon! Aussi mal! On aurait pas osé devant eux! Mais, il n’y avait plus personne pour nous surveiller! Plus que nous, comme des mariés qui font des cochonneries quand tout le monde est parti.»
|| avoir …ans d’âge は酒類、特に葡萄酒の製造からの年数に使われる言い方であり、人間の年齢には avoir l’âge de …ans が正しいフランス語である。|| fermes ここでは無冠詞で書かれているが、農場。自分が二十歳であったことに、辺りの土地の状態を続けて書く。|| 教会の扉は鍵が掛かってなくても通常は閉められているものであり、その扉が開けっ放しになっている状態。 || en confiance あたかも誰も取ったり荒らしたりはしないという気持ちからであるかのように、あるいは、たとえ使ったとしても傷めないように丁寧に使ってくれると信じているかのように。|| quoi 強調のための、文末の単なる間投詞であり、意味はない。|| tranquille 面倒、もめごと、心配、義務、邪魔などがない状態|| ils は村の住人。兵隊たち on は無人状態の村があると、もし見られたならばまったく恥ずかしいであろうような荒らし方をした。過去の反実仮想、直接法大過去+条件法過去で、「もし村の住人たちが別のところにいなかったのならば」、つまり、この村にいたのならば、我々はこのような恥ずべき振る舞いはしなかったであろう。|| on と nous が、ごちゃ混ぜに使われている。|| Plus que nous = il n’y avait plus que nous プリュースと発音されることが多い。
Je me pensais aussi (derrière un arbre) que j’aurais bien voulu le voir ici moi, le Déroulède dont on m’avait tant parlé, m’expliquer comment qu’il faisait, lui, quand il prenait une balle en plein bidon. [013]
Ces Allemands accroupis sur la route, têtus et tirailleurs, tiraient mal, mais ils semblaient avoir des balles à en revendre, des pleins magasins sans doute. La guerre décidément, n’était pas terminée! Notre colonel, il faut dire ce qui est, manifestait une bravoure stupéfiante! Il se promenait au beau milieu de la chaussée et puis de long en large parmi les trajectoires aussi simplement que s’il avait attendu un ami sur le quai de la gare, un peu impatient seulement.
|| se penser 通常ならば自分自身を何々とみなすという意味であるのだが、ここでは単に思うという意味で解釈される。辞書には、この動詞のそのような使い方は載っていない。|| bidon 腹部。調べてみると、Paul Déroulède (1846 – 1914) は尿毒症で死んでいるので、腹部を銃で撃たれたときには死ななかったことになる。文筆家で、また政治家であったようだ。別の所では何か恥ずかしいことをしていたらしい。|| moi 単に動詞 voir の主語を明らかにするため。「不可能ではあるが、私が実際に会って・・・」lui も同様。 || comment que はあまりにも変で、わざとらしい。|| tirailleur 名詞 || magasin 弾薬庫、武器の倉庫。|| La guerre décidément, n’était pas terminée! 「確かに戦争はまだ終わっていなかった」とは書いてあるが、意味としては「自分は戦争の真っ只中にいた」ということ。|| il faut dire ce qui est は「ないがしろにできない真実なので、これだけはどうしても言っておかないと」というような意味の決まり文句なので、動詞は現在形のまま使われる。|| aussi … que si 半過去(過去の話では大過去)。
[013]
Moi d’abord la campagne, faut que je le dise tout de suite, j’ai jamais pu la sentir, je l’ai toujours trouvée triste, avec ses bourbiers qui n’en finissent pas, ses maisons où les gens n’y sont jamais et ses chemins qui ne vont nulle part. Mais quand on y ajoute la guerre en plus, c’est à pas y tenir. Le vent s’était levé, brutal, de chaque côté des talus, les peupliers mêlaient leurs rafales de feuilles aux petits bruits secs qui venaient de là-bas sur nous. Ces soldats inconnus nous rataient sans cesse, mais tout en nous entourant de mille morts, on s’en trouvait comme habillés. Je n’osais plus remuer.
|| ne pas pouvoir sentir 嫌い、我慢できない || よろず田舎というものは、ぬかるみが多く、家々もがらんとしていて、道もどこどこの方向に通っているというよりもただくねくねとしているだけで、田舎には以前から魅力を感じることはなかったのであるが、今回、そこに戦争という要素が添えられて、さらに我慢できないほど嫌なものとなった。|| bourbiers ぬかるみ。|| en finir 終わるという意味。この en には意味はない。|| où les gens n’y sont jamais この y は où があるので本来は不必要。|| n’y pas tenir 我慢できない || talus 道の両側で少し高くなっている斜面。|| rafale 風のことであるが、機関銃の一斉射撃という意味もある。道の両側に並ぶポプラの木の葉が風に吹かれるざわめきの音のほうが、遠くから聞こえるポンポンという銃声と混ざって聞こえる。|| bruits secs 音の波形ならば急な短い波形になるような、打楽器のような音。カチカチ、パンパン、トントンなど。|| nous を語り手と大佐の二人と解釈すると、この二人には銃弾は当たらないが、周囲の兵隊たちには当たっていたとなる。|| on s’en trouvait comme habillés、ここでの en は habillés de mille morts のことであり、死体、死の恐怖、死の危機感があたかも衣服のように隙間なくバルダミュたち(複数)を包むという意味であろう。|| remuer は自動詞で動くという意味であり、否定文において身動きしないという意味になる。
Le colonel, c’était donc un monstre! À présent, j’en étais assuré, pire qu’un chien, il n’imaginait pas son trépas! Je conçus en même temps qu’il devait y en avoir beaucoup des comme lui dans notre armée, des braves, et puis tout autant sans doute dans l’armée d’en face. Qui savait combien? Un, deux, plusieurs millions peut-être en tout? Dès lors ma frousse devint panique. Avec des êtres semblables, cette imbécillité infernale pouvait continuer indéfiniment… Pourquoi s’arrêteraient-ils? Jamais je n’avais senti plus implacable la sentence des hommes et des choses.
|| assuré 確かにそうだと確信できる。|| trépas 死。|| concevoir 理解する。|| devait この devoir は確信としての「何々であるはずだ」を表すのではあるが、皮肉の気持ちがこめられている。|| beaucoup と des は離れており、de は前にある en である。des の後に gens が省略されている。|| en tout 副詞句 彼らの全員が例外なく || frousse 恐怖。|| implacable 冷酷であること。|| Pourquoi s’arrêteraient-ils? 条件法現在形での疑問文で不可能なことの詠嘆を表現。彼らを止めるものなど何もない。彼らに止まることを必要とさせるものなど何もない。|| la sentence もとの意味は裁判の判決であるが、ここでは運命づけられていること。|| les choses は物体ではなく、世の中のありさま、ものごとの意。
Serais-je donc le seul lâche sur la terre? pensais-je. Et avec quel effroi!… Perdu parmi deux millions de fous héroïques et déchaînés et armés jusqu’aux cheveux? Avec casques, sans casques, sans chevaux, sur motos, hurlants, en autos, sifflants, tirailleurs, comploteurs, volants, à genoux, creusant, se défilant, caracolant dans les sentiers, pétaradant, enfermés sur la terre, comme dans un cabanon, pour y tout détruire, Allemagne, France et Continents, tout ce qui respire, détruire, plus enragés que les chiens, adorant leur rage (ce que les chiens ne font pas), cent, mille fois plus enragés que mille chiens et tellement plus vicieux! Nous étions jolis! Décidément, je le concevais, je m’étais embarqué dans une croisade apocalyptique.
|| jusqu’aux cheveux 日本語では頭のてっぺんから足の先までと言うところ。|| perdu 自分がどこにいるのかも分からなくなった状態 || jusqu’aux cheveux 全身、完全に、という表現であり、文字通りのそりままの意味ではない。 || sifflants この語は s が付いていて複数形になっているので形容詞のように扱われる。二本の指を口にくわえてピーという強い音だす siffler を形容詞にしている。|| volants 前後に動詞の現在分詞が何々をしている兵士という意味で使われているので、これは飛行機に乗っている兵士たちであり、自動車のハンドルを握って運転をしている au volant ではない。現在分詞が複数であったり単数であったりしている。文法的には動詞的現在分詞は副詞のように無変化、形容詞的現在分詞は数と性で変化するということになっているが、厳密に使い分けているようには見えない。いずれにせよ、ここに並ぶ語は名詞ではない。|| à genoux 跪いている姿勢は、祈り、懇願、許しを請うときなどの意味をもつ姿勢であり、神に祈ることや捕虜の状態などが想像される。|| 動詞 défiler は通常、自動詞で軍隊が行進をすることであるが、ここでのように再帰代名詞が付く他動詞の場合には「敵の砲撃を避ける」という意味になる。|| pétarader スペルの間に a が入って、特にオートバイのエンジンの大きな音をさせること。|| enfermés sur la terre、八方塞がり。袋のねずみ。|| cabanon 精神病院の拘禁室。|| jolis 反語。
On est puceau de l’Horreur comme on l’est de la volupté. Comment aurais-je pu me douter moi de cette horreur en quittant la place Clichy? Qui aurait pu prévoir avant d’entrer vraiment dans la guerre, tout ce que contenait la sale âme héroïque et fainéante des hommes? À présent, j’étais pris dans cette fuite en masse, vers le meurtre en commun, vers le feu… Ça venait des profondeurs et c’était arrivé.
|| On est puceau de l’Horreur comme on l’est de la volupté. 怖い思いをすることは子供の頃からしばしばあったであろうが、本当の、大文字の恐怖、実際に死ぬか生きるかの恐怖、本物の酷い死体の恐怖は、この戦場において初めて知るものであった。このことは子供の頃からの性的な気持ちなどと比較した場合、成人の実際の身体的な性行為そのものの経験までは性欲について何も知らなかったに等しいと言えるようなものだ。 || Comment aurais-je pu 反実の条件法であるが、和訳をする場合には直訳的に「どうして何々できたであろうか」ではなく、日本語の感嘆の表現として「まさか何々であるとは」などのように訳されなくてはならないのではないだろうか。|| âme fainéante この形容詞は単に罵倒語として使われているので、ものぐさといったような意味を云々してはならない。 || fuite 逃げているのではなく、ここでは流出の意。|| en commun これは前にある en masse と並んで大量なまとまりでというような意味。|| le feu 地獄の巨大な炎、殺戮の炎。|| profondeurs、複数で、とても深い場所。地の底。|| arrivé そして地上に出現した。起こった。
Le colonel ne bronchait toujours pas, je le regardais recevoir, sur le talus, des petites lettres du général qu’il déchirait ensuite menu, les ayant lues sans hâte, entre les balles. Dans aucune d’elles, il n’y avait donc l’ordre d’arrêter net cette abomination? On ne lui disait donc pas d’en haut qu’il y avait méprise? Abominable erreur? Maldonne?Qu’on s’était trompé? Que c’était des manœuvres pour rire qu’on avait voulu faire, et pas des assassinats! Mais non! «Continuez, colonel, vous êtes dans la bonne voie!»
|| broncher 動揺とともに、退却など、何らかの不満に満ちた言葉を発する。|| des petites lettres 形容詞があるので de となるのであるが、ここでは限定されているので通常は les とすべきところ。|| menu 副詞、手紙のちぎり方が細かいこと。|| d’en haut 大佐にどこかから命令を下している将軍のレベルで。|| méprise 名詞。取り違え、勘違い。これは軽蔑ではない。|| Maldonne 誤解。
Voilà sans doute ce que lui écrivait le général des Entrayes, de la division, notre chef à tous, dont il recevait une enveloppe chaque cinq minutes, par un agent de la liaison, que la peur rendait chaque fois un peu plus vert et foireux. J’en aurais fait mon frère peureux de ce garçon-là! Mais on n’avait pas le temps de fraterniser non plus.
|| L’Entraye という地名がトゥールーズの近くにあるが、それではなく、この将軍の苗字がデゾントレイ。複数形になっていて、内臓 les entrailles という語をもじったものと思われる。この登場人物、デゾントレイ将軍はこの先でも話に時々出てくる。|| division 師団。国軍のとても大きなまとまりであり、二万人ぐらいの兵隊からなる。 || liaison、連絡、通信。このように手紙を運ぶのが通信兵の仕事であるようだ。|| que la peur… この関係代名詞 que は、後に続く形容詞が男性なので、先行詞は agent。|| foireux、びくついている状態。バルダミュ自身も目下のところ相当ビビッているので、できることなら是非彼を自分の怖がり仲間としての兄弟にしてやりたかったのだが。|| 条件法過去は反実であり、もし仲良くなるために話をしたりする時間があったのならばということが反実の条件となる。ところが、その時間はなかった。non plus と書いてあるので、その時間もなかったのならば、他に何がなかったのであろうか。それらしいことは書いてないので、たぶん条件法過去は、もし通信兵がバルダミュの部隊に属している人間であり、既に知り合いであったのならばという反実であり、おまけに話をする時間すらもなかったという意味に解釈できるのではないだろうか。
Donc pas d’erreur? Ce qu’on faisait à se tirer dessus, comme ça, sans même se voir, n’était pas défendu! Cela faisait partie des choses qu’on peut faire sans mériter une bonne engueulade. C’était même reconnu, encouragé sans doute par les gens sérieux, comme le tirage au sort, les fiançailles, la chasse à courre!… Rien à dire.
|| 通常、動詞 faire の後の不定詞に前置詞 à が付くことはない。文脈より、この faire は使役の意味ではなく、à se tirer dessus は ce qu’on faisait の内容を不定詞を使って説明しているものとみられる。|| sans un … まったくない状態。|| angueulade ここでは非難、叱責のことであり、言い争いではない。|| 戦争が「まるで当たり前の行事、催しもののように」行われる。これをフランス語で表現しようすると少し長くなる。|| 宝くじの抽選。兵役の抽選との解釈は文脈にそぐわない。|| 婚約は常に複数名詞。婚約パーティー || 猟犬を放ち、馬に乗って猟を楽しむ。
Je venais de découvrir d’un coup la guerre tout entière. J’étais dépucelé. Faut être à peu près seul devant elle comme je l’étais à ce moment-là pour bien la voir la vache, en face et de profil. On venait d’allumer la guerre entre nous et ceux d’en face, et à présent ça brûlait! Comme le courant entre les deux charbons, dans la lampe à arc.
|| dépucelé、少し前の文に戦争の恐怖に関して童貞であったとあることに続いている。|| à peu près seul この言い回しは tout seul との比較において理解される。この à peu près は、「言ってみれば」「充分に」「厳格に確かめる必要はないが」「ある程度」というような意味であり、「だいたい」や「約」とは異なる。|| pour bien la voir la vache、この代名詞 la はセリーヌのこの小説『夜の果てへの旅』での文の書き方においては la vache の先取りである。意味としては la guerre ではあるが、女性名詞であるからといって、文の構造としては単語としてそのように戦争という語で読むと誤読となる。もちろん、この vache は戦争のことを言っているのではあるが。|| en face が二回、異なる意味において使われている。先のほうは、犯罪者の写真のように正面からの顔と横から見た顔のこと。あとのほうは、前方に向かい合っている敵、ドイツ軍のこと。|| 炭素アーク灯は二本の炭素棒の電極の間の放電で光る。
Et il n’était pas près de s’éteindre le charbon! On y passerait tous, le colonel comme les autres, tout mariole qu’il semblait être et sa carne ne ferait pas plus de rôti que la mienne quand le courant d’en face lui passerait entre les deux épaules.
|| 代名詞 il は le charbon を先取りしている。ただし、炭素棒は二本なので複数にすべきであるが、しばしば定冠詞が複数のものをひとつにまとめる場合がある。ここでは物質としての炭素ということで考えることができる。戦争という炭素棒の放電により、皆が死んでいく様子。|| 動詞 sembler の主語が人称代名詞 il の場合、彼なのか非人称なのかを迷うことがある。ここでは彼。|| tout…que は譲歩文と呼ばれ、何々であるにもかかわらずという構文となる。前の部分に対し、大佐は狡猾そうには見えるが、それでも皆と同様の目に会うだろう。|| passerait が二回使われているが、それらの主語は先のほうでは皆、あとのほうは放電の電流である。
Il y a bien des façons d’être condamné à mort. Ah! combien n’aurais-je pas donné à ce moment-là pour être en prison au lieu d’être ici, moi crétin! Pour avoir, par exemple, quand c’était si facile, prévoyant, volé quelque chose, quelque part, quand il en était temps encore. On ne pense à rien! De la prison, on en sort vivant, pas de la guerre. Tout le reste, c’est des mots.
|| bien des façons 様々な仕方。|| condamné à mort まず、バルダミュは、戦場に身を置いてしまったことを、まるで死刑囚も同然であると思う。それに続いて、もしも死刑囚としてではなく、牢屋に留置されていたのなら、さぞかし身の安全を堪能できたであろうと思う。|| il était temps de inf. この言い方は通常、今が何々をするのに好都合な時であるという意味で使われるが、ここでは 副詞 encore が伴っているので、行為がまだ可能であったうちに、の意。|| On ne pense à rien この on は je に対する反省の気持ちから、私は何も知らず、何もせずいた、ということ。|| c’est des mots 戦場では死ぬということのみがあり、戦争におけるその他の政治的な要素、愛国心などは、すべては単なる言葉、口先だけのことでしかない。
Si seulement j’avais encore eu le temps, mais je ne l’avais plus! Il n’y avait plus rien à voler! Comme il ferait bon dans une petite prison pépère, que je me disais, où les balles ne passent pas! Ne passent jamais! J’en connaissais une toute prête, au soleil, au chaud! Dans un rêve, celle de Saint-Germain précisément, si proche de la forêt, je la connaissais bien, je passais souvent par là, autrefois. Comme on change! J’étais un enfant alors, elle me faisait peur la prison. C’est que je ne connaissais pas encore les hommes. Je ne croirai plus jamais à ce qu’ils disent, à ce qu’ils pensent. C’est des hommes et d’eux seulement qu’il faut avoir peur, toujours.
|| Saint-Germain とは Boulevard Saint-Germain のこととするならば、サン=ジェルマン=デ=プレの教会は昔は牢屋として使われていたこともあったのだが、森のすぐ近くと書いてあるのでバルダミュは別の場所のことを言っているとも思われる。Saint-Germain-en-Laye はパリからは少し遠いので、そこの刑務所の近くをしばしば通り過ぎたという表現とは嚙み合わない。|| Comme il ferait bon…! 条件法現在で、さぞ快適だろうと言う意味であるが、前のほうで、Si seulement j’avais encore eu le temps と書き、さらに que je me disais と間接話法で続けているので、条件法過去で Comme il aurait fait bon…! および passeraient とすべきところ。|| tout prêt (ホテルの部屋など) 準備が最高の状態であるような || Dans un rêve = Comme dans un rêve 夢の中で見たのではなく、実際に見たのであるが、まるで夢のようだという意味と解釈される。
Combien de temps faudrait-il qu’il dure leur délire, pour qu’ils s’arrêtent épuisés, enfin, ces monstres? Combien de temps un accès comme celui-ci peut-il bien durer? Des mois? Des années? Combien? Peut-être jusqu’à la mort de tout le monde, de tous les fous? Jusqu’au dernier? Et puisque les événements prenaient ce tour désespéré je me décidais à risquer le tout pour le tout, à tenter la dernière démarche, la suprême, essayer, moi, tout seul, d’arrêter la guerre! Au moins dans ce coin-là où j’étais.
Le colonel déambulait à deux pas. J’allais lui parler. Jamais je ne l’avais fait. C’était le moment d’oser. Là où nous en étions il n’y avait presque plus rien à perdre. «Qu’est-ce que vous voulez?» me demanderait-il, j’imaginais, très surpris bien sûr par mon audacieuse interruption. Je lui expliquerais alors les choses telles que je les concevais. On verrait ce qu’il en pensait, lui. Le tout c’est qu’on s’explique dans la vie. A deux on y arrive mieux que tout seul.
|| un accès 発作。|| risquer le tout pour le tout すべてを失う覚悟で試みる。一か八か。戦場での英雄的な行動は敵兵を殺すことであるのに対し、ここでのバルダミュは自分が何とか生き延びること、せめてこの隊だけでも戦いを止めることに英雄的な気持ちをもっていた。 || à deux pas、(私の)すぐ傍らを || Jamais je ne l’avais fait. その時まで、大佐に何らかの意見をもって話しかけたことは、なかった。 || où en être 場所ではなく、どの程度まで、ことが進んでいるかといった段階を示す。大佐に、せめて我々だけても戦争を中止しようではないかと持ちかけるという行為において、一応、大佐に近づいてみた。戦地のひどいありさまにおいて、たとえ自分がここで大佐に生意気だと怒られたとしても、もう何も失うものはなかった。そのさきは条件法による過去未来となり、バルダミュの頭のなかだけでの空想となる。|| concevoir les choses 目下の状況を見て判断すること。 || On verrait 現在での話ならば未来で On verra ce qu’il en pense であり、「どうなるかがこれから分かるであろう」という意味。 || Le tout c’est…何々が大切だ。「いつも黙っているだけではなく、思ったことは口に出して言ってみるのも大切なことだ。ふたりで考えれば、良い案も浮かぶかもしれないではないか」
J’allais faire cette démarche décisive quand, à l’instant même, arriva vers nous au pas de gymnastique, fourbu, dégingandé, un cavalier à pied (comme on disait alors) avec son casque renversé à la main, comme Bélisaire, et puis tremblant et bien souillé de boue, le visage plus verdâtre encore que celui de l’autre agent de liaison. Il bredouillait et semblait éprouver comme un mal inouï, ce cavalier, à sortir d’un tombeau et qu’il en avait tout mal au cœur. Il n’aimait donc pas les balles ce fantôme lui non plus? Les prévoyait-il comme moi?
|| au pas de gymnastique あわてて、ほとんど走るような速さで、急いで || fourbu 疲れ果てた || dégingandé ひょろひょろと背が高く、動作のぎこちない || 徒歩の騎兵というものは冗談ではなく本当にあった。馬に乗らずに自分は歩いて手綱を引っぱっていた。|| 画家 Jacques-Louis David が描いたベリサリウスは子供が兜をひっくり返して器のようにして持ち、この中に施し物を入れて下さいと物乞いをしている。|| et puis 時間的な順序だけではなく、物事の列挙にも使われる。|| bredouillait 早口で不明瞭に喋る|| éprouver comme 身体感覚として・・・を強く感じる || avoir mal au cœur 嘔吐感がある
“Qu’est-ce que c’est?» l’arrêta net le colonel, brutal, dérangé, en jetant dessus ce revenant une espèce de regard en acier.
De le voir ainsi cet ignoble cavalier dans une tenue aussi peu réglementaire, et tout foirant d’émotion, ça le courrouçait fort notre colonel. Il n’aimait pas cela du tout la peur. C’était évident. Et puis ce casque à la main surtout, comme un chapeau melon, achevait de faire joliment mal dans notre régiment d’attaque, un régiment qui s’élançait dans la guerre. Il avait l’air de la saluer lui, ce cavalier à pied, la guerre, en entrant.
|| arrêter ここでは、喋っているのを遮る || revenant、この世に戻ってきたという意より、幽霊のこと。|| cela = la peur || une espèce de この語は鋼鉄のようであることに付けられているので、「一種の」とは和訳せずに、視線が「まるで鋼鉄のように」冷酷であるという言い方となる。 || aussi、比較の第ニ項なしで、とてもの意。|| チャップリンがかぶっていた帽子が山高帽、chapeau melon。シルクハットよりも低くて丸みがある。ちなみに、探偵スティード The Avengers という昔のテレビドラマのシリーズがあって、フランスでは Chapeau melon et bottes de cuir というタイトルでとても長い間、放送していた。年配のフランス人はこの単語を耳にすると、この番組のタイトルが頭に浮かぶはすである。|| la saluer 徒歩の騎兵は、まるで戦争に対して挨拶をしているかのようだった。この動詞での挨拶する相手は直接目的語。
Sous ce regard d’opprobre, le messager vacillant se remit au «garde-à-vous», les petits doigts sur la couture du pantalon, comme il se doit dans ces cas-là. Il oscillait ainsi, raidi, sur le talus, la transpiration lui coulant le long de la jugulaire, et ses mâchoires tremblaient si fort qu’il en poussait des petits cris avortés, tel un petit chien qui rêve. On ne pouvait démêler s’il voulait nous parler ou bien s’il pleurait.
|| opprobre 男性名詞、目の前の人を屈辱し辱めること。|| vaciller [vasije], しかし osciller [ɔsije] || garde-à-vous、この号令の発音は ギャーをとても長く伸ばし、vous のところに強いアクセントが付く。ここでは、気をつけの姿勢をとること。ちなみに、この前、大脱走というスティーブ・マックイーンの映画をテレビで見ていたら、ドイツ軍側の捕虜収容所では、ドイツの偉い人が皆のいる大きな部屋につかつかと入ってくると、誰かが「気をつけ」と号令をかけるのだが、”Achtung!”と叫んでいた。これは気をつけるという動詞の名詞形なのだが、日本の小学校などでも校庭に生徒が並んだときに「気をつけ」の号令が掛けられるが、驚いたことにドイツのナチスの号令の直訳をそのまま使っているのだ。|| les petits doigts 右手の小指と左手の小指。|| comme il se doit 非人称。然るべきこととして || jugulaire 軍帽のあご紐 || mâchoire、女性名詞、通常は単数で下顎を指すが、ここでは上顎と下顎ががたがたと震えるという意味で複数で書かれている。|| comme il se doit 非人称。ひとつの慣用句で、当然という意味。|| cris avortés 声にならない叫び。|| démêler 識別する。
Nos Allemands accroupis au fin bout de la route venaient justement de changer d’instrument. C’est à la mitrailleuse qu’ils poursuivaient à présent leurs sottises; ils en craquaient comme de gros paquets d’allumettes et tout autour de nous venaient voler des essaims de balles rageuses, pointilleuses comme des guêpes.
|| fin 形容詞 || この changer de は自動詞。|| essaim、(蜂の)群れ。
L’homme arriva tout de même à sortir de sa bouche quelque chose d’articulé.
— Le maréchal des logis Barousse vient d’être tué, mon colonel, qu’il dit tout d’un trait.
— Et alors?
— Il a été tué en allant chercher le fourgon à pain sur la route des Étrapes, mon colonel!
— Et alors?
— Il a été éclaté par un obus!
— Et alors, nom de Dieu!
— Et voilà! Mon colonel…
— C’est tout?
— Oui, c’est tout, mon colonel.
— Et le pain? demanda le colonel.
Ce fut la fin de ce dialogue parce que je me souviens bien qu’il a eu le temps de dire tout juste: «Et le pain?» Et puis ce fut tout. Après ça, rien que du feu et puis du bruit avec. Mais alors un de ces bruits comme on ne croirait jamais qu’il en existe. On en a eu tellement plein les yeux, les oreilles, le nez, la bouche, tout de suite, du bruit, que je croyais bien que c’était fini; que j’étais devenu du feu et du bruit moi-même.
|| maréchal des logis 騎兵、砲兵の伍長 || chercher この動詞は機械的に狭い意味で「見失ったものを探す」とするのには注意が必要である。フランス語では aller chercher の形で「手に入れてくる」「買ってくる」などの意味でも頻繁に使われ、ここでは、パンの運搬車を部隊のほうに誘導してくるという意味であろう。 || fourgon 軍事物資の運搬の自動車であるが、第一次世界大戦の頃なので幌付きの馬車であろう。|| Et voilà 言葉の最後につけて、言いたいことが以上であることを表現する。|| tout juste かろうじて、大佐が、パンはどうなったのか、と尋ねることができるだけのぎりぎりの時間があったことをバルダミュは記憶しているので、この二人の対話はそれ以外は続かなかったと言えるのである。|| et puis c’est tout 「以上です」という意味の常套句。バルダミュの語りには et puis が頻発している。|| du feu 部分冠詞が付いているので、砲撃よりも炎の意で解釈されるのだが、du bruit avec と続いているので、爆発する炎であり、めらめらとゆっくり燃え上がるような炎のことではない。|| rien que du feu et puis du bruit avec 最初は炎だけ、そして今度はそれに爆発の音が伴った。|| un(e) de ces··· とても強度な何々という言い方。
Et puis non, le feu est parti, le bruit est resté longtemps dans ma tête, et puis les bras et les jambes qui tremblaient comme si quelqu’un vous les secouait de par-derrière. Ils avaient l’air de me quitter et puis ils me sont restés quand même mes membres. Dans la fumée qui piqua les yeux encore pendant longtemps, l’odeur pointue de la poudre et du soufre nous restait comme pour tuer les punaises et les puces de la terre entière.
|| et puis non、ひとつのことが終わってやれやれと思うはずだったのに、今度は別の問題が起こった状態に対して言う表現。|| ils この主語は後に書かれている mes membres のこと。|| le soufre 硫黄。|| la terre entière 大文字は地球であるが、このように小文字で書かれている場合は地面を意味する。地上の。
Tout de suite après ça, j’ai pensé au maréchal des logis Barousse qui venait d’éclater comme l’autre nous l’avait appris. C’était une bonne nouvelle. Tant mieux! que je pensais tout de suite ainsi:
«C’est une bien grande charogne en moins dans le régiment!»
Il avait voulu me faire passer au Conseil pour une boîte de conserve.
«Chacun sa guerre!» que je me dis.
De ce côté-là, faut en convenir, de temps en temps, elle avait l’air de servir à quelque chose la guerre! J’en connaissais bien encore trois ou quatre dans le régiment, de sacrés ordures que j’aurais aidés bien volontiers à trouver un obus comme Barousse.
|| l’autre, 別のという意味はなく、さきほどのびくびくした通信兵のこと。大佐ではないほう。|| charogne、罵倒語。|| un … en moins、ひとつ減った。 || Conseil 軍法会議。|| chacun son ··· この言い方の意味は間違いやすい。人それぞれがその人なりのそれを持っているということではなく、ひとつの事柄に関して、人それぞれの立場があるという意味。|| De ce côté-là、その点に関しては。いやな奴が死ぬということに関してのみ言うなら。|| il faut en convenir que = il faut que。|| elle = la guerre || j’aurais aidés、条件法過去で、もしできることであったならば、砲弾に遭遇してしまうことを手伝ってさしあげたかったような連中。ordure は女性名詞であるのにも関わらず、sacrés と aidés が男性複数になっている。版によっては女性複数に修正されているものもあるようだ。(édition anniversaire Denoël)
Quant au colonel, lui, je ne lui voulais pas de mal. Lui pourtant aussi il était mort. Je ne le vis plus, tout d’abord. C’est qu’il avait été déporté sur le talus, allongé sur le flanc par l’explosion et projeté jusque dans les bras du cavalier à pied, le messager, fini lui aussi. Ils s’embrassaient tous les deux pour le moment et pour toujours. Mais le cavalier n’avait plus sa tête, rien qu’une ouverture au-dessus du cou, avec du sang dedans qui mijotait en glouglous comme de la confiture dans la marmite. Le colonel avait son ventre ouvert, il en faisait une sale grimace. Ça avait dû lui faire du mal ce coup-là au moment où c’était arrivé. Tant pis pour lui! S’il était parti dès les premières balles, ça ne lui serait pas arrivé.
Toutes ces viandes saignaient énormément ensemble.
|| vouloir du mal à qqn その人に悪いことが起こることを願う || Je ne le vis plus, tout d’abord その瞬間には大佐の姿が消え、あたりを見まわしても、すぐには大佐がどこにいるのかが分からなかったという意味。次に爆風の結果が書かれる。|| allongé sur le flanc 仰向けやうつ伏せではない。|| s’embrassaient 挨拶などのハグのことであり、キスではない。|| dans la marmite 不定冠詞を付けたくなるが、de la confiture に部分冠詞が使われているので、両方に不定的な冠詞が使われることはない。|| il en faisait この en は顔をしかめていた理由、原因をさす。de son ventre ouvert || viande は食用の牛肉などに使う名詞であり、ちなみにステーキの生に近い焼き具合を saignant セニョンと言う。
Des obus éclataient encore à la droite et à la gauche de la scène. J’ai quitté ces lieux sans insister, joliment heureux d’avoir un aussi beau prétexte pour foutre le camp. J’en chantonnais même un brin, en titubant, comme quand on a fini une bonne partie de canotage et qu’on a les jambes un peu drôles.
«Un seul obus! C’est vite arrangé les affaires tout de même avec un seul obus», que je me disais.
«Ah! dis donc! que je me répétais tout le temps. Ah! dis donc!…»
Il n’y avait plus personne au bout de la route. Les Allemands étaient partis. Cependant, j’avais appris très vite ce coup-là à ne plus marcher désormais que dans le profil des arbres.
|| scène 演劇の舞台 || sans insister つべこべ言っていないで。動詞 quitter と組み合わせて用いる。|| canotage、左右両手にオールを持って漕ぐような、池や湖などで使う普通のボートをゆっくりと漕いて遊ぶことであり、オリンピックなどにあるスポーツとしてのカヌーのことではない。ボートをしばらく漕いだ直後は歩くときに足が変な感じになるようだ。|| dis donc、ジドンのように発音する。|| ce coup-là、さきほどは大佐とともに道のド真ん中を歩いていたことに対して、今度は。 || 道路の道幅を横軸に取った断面図は profil と呼ばれる。道の断面図の左右に一つずつ木の部分、すなわち、木の列を前から見た部分があるが、その中を歩くという意味。
J’avais hâte d’arriver au campement pour savoir s’il y en avait d’autres au régiment qui avaient été tués en reconnaissance. Il doit y avoir des bons trucs aussi, que je me disais encore, pour se faire faire prisonnier!… Çà et là des morceaux de fumée âcre s’accrochaient aux mottes.
|| en reconnaissance、偵察に出て。この文はバルダミュの考え方にそぐわないようにも思える。|| un truc 何かあるもの。この語は子供がまだ名詞を憶えていない物を会話のなかで示すときによく使われる。|| de bons trucs と書くべきところかもしれない。|| prisonnier 名詞。faire prisonnier 逮捕する || これは実際に戦場にいた者だけが知っている光景なのだろう。地面の盛り上がっているような部分には煙が流れ去らずにいつまでもかたまりとなって残っている様子かと思われる。
«Ils sont peut-être tous morts à l’heure actuelle? que je me demandais. Puisqu’ils ne veulent rien comprendre à rien, c’est ça qui serait avantageux et pratique qu’ils soient tous tués très vite… Comme ça on en finirait tout de suite… On rentrerait chez soi… On repasserait peut-être place Clichy en triomphe… Un ou deux seulement qui survivraient… Dans mon désir… Des gars gentils et bien balancés, derrière le général, tous les autres seraient morts comme le colon… Comme Barousse… comme Vanaille… (une autre vache)… etc. On nous couvrirait de décorations, de fleurs, on passerait sous l’Arc de Triomphe. On entrerait au restaurant, on vous servirait sans payer, on payerait plus rien, jamais plus de la vie! On est les héros! qu’on dirait au moment de la note… Des défenseurs de la Patrie! Et ça suffirait!… On payerait avec des petits drapeaux français!… La caissière refuserait même l’argent des héros et même elle vous en donnerait, avec des baisers quand on passerait devant sa caisse. Ça vaudrait la peine de vivre.»
|| 馬鹿な連中が早く死ねば、それだけ早く戦争が終り、バルダミュは帰ることができる。|| à rien 量的な副詞が ne rien comprendre を修飾し、強調する。veulent があるので、「理解できない」、「理解しない」ではなく、「理解しようとしていない」という意味。バルダミュ自身も戦争を理解はしていないのだが、少なくとも疑問はもっている。それに対し、彼らは疑問すらもっていない。|| c’est ça qui serait… この c’est は qui との構文であり、ça は、前の部分「何も知ろうとはしていない」を指す。qu’ils soient 接続法で目的の意を表す。何々のためには。「彼らは頭がカラだから簡単に殺されるのだ」|| ここでの不定代名詞 on は生き残った人間、バルダミュ自身を含む。|| 動詞は条件法で書かれている。|| dans mon désir、早くそのようになってほしい。|| colon = colonel || bien balancé、均整のとれたようす。他の兵隊はみんな死んでいるので、凱旋の行進では先頭の将軍の後には自分とニ、三人しかいない。|| couvrir の手段を表す語は de のみが付く。des にすると直接目的補語のように聞こえてしまう。|| restaurant 凱旋門からシャンゼリゼ通りに入ったのであれば、有名なレストランとしては、たとえば「フケッツ」がある。セリーヌは高級レストランのイメージで書きたかったので、凱旋門をくぐると書いたのであろう。勘定は普通のレストランの十倍ぐらいになる。|| on vous servirait sans payer 人称代名詞の置き換えに注意。|| note レストランの勘定書き。l’addition。フランスのレストランでは、勘定書きはウエイターがテーブルに持ってきて、客はテーブルで払う。ウエイターは客が払った金銭や小切手を勘定場に持っていき、おつりがあったらまたテーブルに持ってくる。勘定場はレストランの入口の近くにあり、冬などは客のコートなどもそこで預かる。この文では、レストランで食事をし、店を出るときに勘定場の前を通っても勘定場の女性は、まだ支払いが済んでいないなどと文句を言うことはなく、英雄からはお金は受け取れないと言いながらキスをしてくるというバルダミュの想像。|| 戦争に生き残って帰るとは、レストランで勘定がただになるということだ。
Je m’aperçus en fuyant que je saignais du bras, mais un peu seulement, pas une blessure suffisante du tout, une écorchure. C’était à recommencer. Il se remit à pleuvoir, les champs des Flandres bavaient l’eau sale. Encore pendant longtemps je n’ai rencontré personne, rien que le vent et puis peu après le soleil. De temps en temps, je ne savais d’où, une balle, comme ça, à travers le soleil et l’air me cherchait, guillerette, entêtée à me tuer, dans cette solitude, moi. Pourquoi? Jamais plus, même si je vivais encore cent ans, je ne me promènerais à la campagne. C’était juré.
|| もし怪我が大怪我だったなら、もう戦場に来なくてもよくなるかもしれないのに、残念ながらこのようなかすり傷では不充分だ。|| バルダミュが軍隊に入り、気が変わって軍隊を抜けようとした際に町の門が閉められていた場面でも C’est tout à recommencer! と言っていた。||フランドルはフランスとベルギーにまたがる地方。フランダースの犬のフランダースのこと。|| guilleret, adj., 無頓着に陽気であること。|| moi 前の直接目的補語 me の強調。”me!” 「ム!」とは言わない。|| juré 誓って言ったぞ。
En allant devant moi, je me souvenais de la cérémonie de la veille. Dans un pré qu’elle avait eu lieu cette cérémonie, au revers d’une colline; le colonel avec sa grosse voix avait harangué le régiment:
«Haut les cœurs! qu’il avait dit… Haut les cœurs! et vive la France!»
Quand on a pas d’imagination, mourir c’est peu de chose, quand on en a, mourir c’est trop. Voilà mon avis. Jamais je n’avais compris tant de choses à la fois. Le colonel n’avait jamais eu d’imagination lui. Tout son malheur à cet homme était venu de là, le nôtre surtout. Étais-je donc le seul à avoir l’imagination de la mort dans ce régiment? Je préférais la mienne de mort, tardive… Dans vingt ans… Trente ans… Peut-être davantage, à celle qu’on me voulait de suite, à bouffer de la boue des Flandres, à pleine bouche, plus que la bouche même, fendue jusqu’aux oreilles, par un éclat. On a bien le droit d’avoir une opinion sur sa propre mort.
|| en allerant devant moi バルダミュは立ち止まって考え込んでしまうのではなく、ひとりで前へ前へと進みながら || revers この場合は、丘が高くなり、そして低くなるその下り坂の斜面のことであり、丘の後ろ側の平地のことではない。|| haranguer、説教をする。他動詞で、「誰々に」を直接目的語でとる。|| Haut les cœurs! 勇気を出せ。|| Jamais je n’avais p.p…. このときが初めてだった。 || le nôtre surtout この所有代名詞は文脈より「不幸」 のこと。|| la mienne は前の l’imagination de la mort のことであるので、”la mienne de la mort” de mort tardive となる。コンマはリズム的な表現であり、文法的には不必要。ここでの名詞単数 imagination は自分自身の死に関してバルダミュが想像したイメージの総体を指しており、想像力のことではない。 l’image de mort のほうが読者には分かりやすい。 l’imagination de la mort la mienne tardive と書くと、形容詞は l’imagination にかかってしまう。|| de suite 何度も続けて || éclat 破裂した爆弾の破片。|| opinion この単語はフランス語では日本語での「意見」よりも主張として強いもの、断固としたものをもっている。
Mais alors où aller? Droit devant moi? Le dos à l’ennemi. Si les gendarmes ainsi, m’avaient pincé en vadrouille, je crois bien que mon compte eût été bon. On m’aurait jugé le soir même, très vite, à la bonne franquette, dans une classe d’école licenciée. Il y en avait beaucoup des vides des classes, partout où nous passions. On aurait joué avec moi à la justice comme on joue quand le maître est parti. Les gradés sur l’estrade, assis, moi debout, menottes aux mains devant les petits pupitres. Au matin, on m’aurait fusillé: douze balles, plus une. Alors?
|| droit devant moi、まっすぐ前に。通常 tout droit と言う。ちなみに、右の方へは、à droite || pincer 警官が悪人を現行犯で捕まえること。|| en vadrouille、ぶらぶら歩いているところを。|| mon compte eût été bon 接続法大過去は条件法過去第二形であり、si に続く直接法大過去に対応している。mon compte est bon は、自分はこれから殺されるほどの罰を受けるであろうという意味。軍法会議は、からっぽの学校の教室で行われた。まるで生徒が教師がいないときに軍法会議ごっこで遊んでいるかのようだ。戦場では、敵に背を向けて敵前逃亡をした脱走兵には重い刑が課せられる。|| à la bonne franquette、さあ、どうぞ、どうぞこちらへ、ご遠慮なくと言いながら。|| 形容詞 licenciée は教室を修飾しているのであり、名詞 école を修飾しているのではない。戦場の、もはや使われていない教室で。|| vide、名詞。がらんとした空間。vides の前の des は不定冠詞複数。前に既に en があるので beaucoup de ではない。en と des vides des classes が重複しているので、本来はどちらかが不必要。 || jouer à la justice、裁判ごっこをして遊ぶ。 || maître 小学校のクラスの教師。|| gradé 下士官。|| 歴史家、フレデリック・ルソーによると、第一次世界大戦の際、脱走兵を死刑にするときには十二人が銃で撃ち、そして死ぬ人間を苦痛から救うためにこめかみにとどめの一発を撃ったのだそうだ。
Et je repensais encore au colonel, brave comme il était cet homme-là, avec sa cuirasse, son casque et ses moustaches, on l’aurait montré se promenant comme je l’avais vu moi, sous les balles et les obus, dans un music-hall, c’était un spectacle à remplir l’Alhambra d’alors, il aurait éclipsé Fragson, dans l’époque dont je vous parle une formidable vedette, cependant. Voilà ce que je pensais moi. Bas les cœurs! que je pensais moi.
|| cuirasse 第一次世界大戦のフランス兵の胸甲はとても簡単なものだった。|| 大佐が銃弾や砲弾にも平気で歩いているようすを劇場でやったら、さぞかしうけるだろうな。Alhambra はパリのミュージックホールの名。Harry Fragson (1869-1913)はピアノを弾きながら歌う実在した有名な歌手。|| 前出の Haut les cœurs! が元気を出せという言葉であることに対応する。
ルイ=フェルディナン・セリーヌ夜の果てへの旅
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