ジュヌヴィエーヴ・ド・ブラバン 日本語訳

無断転載禁止。このページの記述はtokyomaths.comの2015年4月の著作です。
ジュヌヴィエーヴ・ド・ブラバン
子やぎ聖母教会の起こりにまつわる伝説
マチアス・エンミク作(ラテン語)
tokyomaths.com訳
私が訳したラテン語の原文はこちら
Matthias Emmich; Historiola de Exordio Capellæ Frawenkirchen
(注。«「ジュヌヴィエーヴ・ド・ブラバン」という題名について» ···フランスの作曲家のオペラ作品が日本で公演される際、フランス語の題名Geneviève de Brabantが「ブラバンのジュヌヴィエーヴ」と邦訳されていることがあるようです。それらの関係者の方々には申し訳ありませんが、貴族の家柄や土地の名前などが苗字に使われているときの前置詞 de や von をひらがなの「の」とすることに対し、僭越ながらここでひとつ異議を唱えなくてはなりません。勿論、意味としては「の」であることに誤りはないのですが。私にはこれらの前置詞について一般論として述べるだけの広い知識もありませんので、この物語だけに論点をしぼるならば、ブラバンは公爵家の家名であり、主人公の名前に添えられた「ド・ブラバン」のもつ貴族的な«黄褐色の»響きは、貴族の女性として生まれ、裕福な生活してきたことと森の中で動物のように草を食べ、裸で生きのびたこととの対比を強調する効果として重要な要素です。この対比が物語の舞台設定の柱となります。苗字というものが一般に広まり始めた時代であり、苗字のない人たちは橋のたもとの家の誰々、身体の大きな誰々、色白の誰々のように呼ばれていたわけですから、公爵家の家名の付いた「ジュヌヴィエーヴ・ド・ブラバン」という名前は読者の想像のなかでの、いわば舞台衣装ともなります。通常、日本語には外国人の人名のdeやvonなどを「の」と規則的に訳す習慣はありません。日本人の人名には、たしかに坂上ノ田村麻呂や坂田ノ金時、また、森ノ石松、清水ノ次郎長といったような名前がありました。しかし、外国人の人名をモーパッサンのギー、ベートーベンのルドゥヴィヒ、ゴールのシャルル、ビンチのレオナルドなどと訳すことはありません。そのような感覚から判断するならば、「ブラバンのジュヌヴィエーヴ」という邦訳が、あたかもブラバン村の腕まくりをした田舎娘のような印象を日本の読者に与える可能性が少なからずあることが理解されるかと思います。ジュヌヴィエーヴの字面は既にカタカナ書きの限界であり、ひらがなを真ん中に一つ入れた方が見た目が落ち着くという気持ちも分かります。これは日本語での感じということだけの問題ですが、ここでは題名を貴族の気品とともに「ジュヌヴィエーヴ・ド・ブラバン」としておきます。)

昔々、オフテンディンク宮殿のヒドルフ大司教の時代、異教の国々に対する十字軍の攻撃が続けられていた頃のこと、トリアーの宮廷にジークフリートというキリスト教の洗礼名をもつ立派なパラティン貴族がいた。妻のジュヌヴィエーヴは王家ブラバン公の娘であり、たいへん美しく、心の優しい女性であった。ジークフリートはジュヌヴィエーヴのために小さな礼拝堂を建てさせた。その礼拝堂でジュヌヴィエーヴは昼も夜も時を惜しんで聖母マリアに祈りを捧げ、また聖母マリアの愛のもと、できる限りの施し物を貧しい人々に与えるのであった。
いよいよジークフリートにも遠くの国に戦いに出かける日が近づいた。ジークフリートは他の男たちが美しいジュヌヴィエーヴにみだらに近づくことのないよう、ジュヌヴィエーヴが忠実な家来たちとともにメエン村の近くにあるシメルン城に身をおくことを命じた。ジュヌヴィエーヴがとても美しく、そして、まだ子供もなかったからである。
戦いに出かけるために大急ぎで準備をしているなか、ジークフリートはジュヌヴィエーヴのシメルン城への移動のために男爵や騎士たちを召喚した。そのなかには、誰よりも勇敢で魅力のあるパラティン貴族、騎士隊長ゴロも含まれていた。全員がシメルン城に到着すると、ジークフリートは皆の意見を聞いた。
「皆の者、私の留守の間、私の代理として皆を統率する長官には誰がよいであろうか」
満場一致でゴロが選ばれ、長官に任命された。ゴロは、すべての職務を統率する長官として宣誓をした。
その夜、ジークフリートがジュヌヴィエーヴと夜を過ごした際、神聖なる定めより、そして神の知るとおり、ジュヌヴィエーヴは妊娠した。
いよいよ戦いに出発という日の朝、ジークフリートは長官ゴロを呼んだ。
「ゴロ、私が留守の間、我らが愛すべきジュヌヴィエーヴを守るとともに、このトリアーの地をしっかりと統率するのだ」
ジークフリートの出発に際し、ジュヌヴィエーヴは辛い別れの苦しみに、なかば死んだように床に倒れてしまった。ジークフリートは倒れた妻を抱き起こして叫んだ。
「聖母マリアよ、聖母マリアよ、私の妻を守りたまえ」
涙し、抱きしめ、接吻し、愛のすべてを表し、別れの言葉とともにジークフリートは遠い国に向かい出発するのであった。
しかし、ジークフリートの聖母マリアへの願いもむなしく、すぐさま長官ゴロは不誠実な本性を現し、ジュヌヴィエーヴとの不貞を企むのであった。
ジュヌヴィエーヴを愛撫し、知る限りの誘惑の言葉を投げかけた。
「奥様、どれだけ長い間、私があなたを愛していたかを神は知っています。私はどうしたらよいでしょうか。何も仰らずに静かに横になって下さい」
信仰心の深いジュヌヴィエーヴは叫んだ。
「そのようなことをするぐらいならあなたの胸を短剣で刺し、そして自分も死んだほうがましです」
そう言われながらも極悪な長官ゴロは、ただ得意気に笑っているのであった。
数日後、再びゴロはジュヌヴィエーヴのところに来て、彼女を欺くために自分で書いた手紙を見せるのであった。
「奥様、これは今日、私宛に届いた手紙です。何が書いてあるかお伝えしましょうか」
「お願いします」
「奥様、ジークフリート様が兵士全員とともに海で亡くなったのです」
「ああ、何ということでしょう。聖母マリア様、お助けください。私はもうだめです」
ジュヌヴィエーヴは深い悲しみに、そのままぐったりと倒れるように眠ってしまった。すると夢の中に聖母マリアの姿がはっきりと現れ、ジュヌヴィエーヴに告げるのであった。
「元気を出しなさい。ジークフリートは生きています。兵士の何人かは、それほど苦しむこともなく、静かに死んでしまいましたが」
ジュヌヴィエーヴは、この夢にすっかり安心し、目を覚ますと食事を頼んだ。長官ゴロはきちんとした食事を出させた。ジュヌヴィエーヴが元気を回復してしまう前に、悪だくみを抱くゴロは言った。
「奥様、私宛の手紙の内容をお聞きになったでしょう。ジークフリート様は亡くなられたのです。私の妻も以前、亡くなってしまいました。今、この城は私が統率しています。ですから、あなたは私を夫にすることができるのです」
ゴロはジュヌヴィエーヴを抱きしめ接吻を始めた。ジュヌヴィエーヴは聖母マリアの力を借り、こぶしを丸め、全身の力をこめてゴロの顔面を殴った。ゴロは、みだらな悪だくみが自分の思惑どおりに進まないので、ついに怒りが爆発し、ただちにジュヌヴィエーヴの世話をしている召使いたちを全員追い払い、彼女の身の回りの世話をする者が一人もいないようにしてしまった。
*そして、ジュヌヴィエーヴを牢に閉じ込めた。
[*この一行は原文にはなく、訳者tokyomaths.comが加えたものです。]
ジュヌヴィエーヴは臨月をむかえ、可愛く美しい男の子を出産した。しかし、彼女を手伝う者はひとりもなく、そればかりか、洗濯係の老婆があらん限りのいやがらせをするのであった。ジュヌヴィエーヴがそのような失意のどん底に生きているとき、ジークフリートからの使者がシメルン城に到着した。
「ジークフリート様は生きておられ、何人かの兵士だけが亡くなりました」
即座にジュヌヴィエーヴは尋ねた。
「主人は、今、どこにいるのですか」
「すでにジークフリート様はストラスブールまで戻られています」
ジュヌヴィエーヴの喜びは、たいへんなものであった。そして極悪な長官ゴロからも自由の身になれるのだ。
ゴロがやって来た。ジュヌヴィエーヴはジークフリートの使者の報告をゴロに伝えた。ジークフリートが帰ってくることを知ったゴロは、その恐怖に大声で泣きわめき、震え、おびえた。
「何ということだ。俺はどうすればいいのだ」
シメルン城を見下ろす丘に住む老婆がゴロの慌てぶりを知って、彼のところにやってきた。
「どうなすったのじゃ。私に話しなされ。私の言うとおりにすれば大丈夫じゃ」
「おまえ、俺がジュヌヴィエーヴにどんな悪いことをしてきたか知っているか。彼女の夫が帰ってくるのだ。ひどいめにあうぞ。いい方法があるのなら言ってくれ」
そこで老婆の言うことには、
「よく聞きなされ。ジュヌヴィエーヴは子供を生んだ。たが、その子が不貞の子でないと誰が断言できるのじゃ」
老婆は腰をおろすとジークフリートの出発からジュヌヴィエーヴが子供を生んだときまでの日数を数え、妊娠の正確な日付を計算した。
「不貞の子ではないと誰が言える。ジークフリートのもとへ急げ。そして、ジュヌヴィエーヴには愛人がいたと言うのじゃ。下っ端の召使、料理番とでも言うがいい。ジークフリートはジュヌヴィエーヴを殺すほど罰し、そして、おまえ様は助かるのじゃ」
ゴロは、なるほどと思った。
「ばばあ、そりゃあ名案だ。恩にきるぜ」
彼はジークフリートのもとへ急ぎ、ジュヌヴィエーヴの不貞を報告した。その話を鵜呑みにしたジークフリートは悔しがり、うなり声をあげた。
「おお、聖母マリアよ、妻を守っていて欲しいと申したではないか。いかにしてジュヌヴィエーヴにそのような不名誉なことが起こりえたのだ。聖母マリアよ、あなたは誰の味方なのだ。神よ、大地を真っ二つに割って我を飲み込ませたまえ。このような不誠実な女と一緒であるなど、なんという恥なのだ。死んだほうがましだ」
ゴロは、打ちひしがれたジークフリートに言った。
「ジークフリート様、あのような浮気な女を生かしておいてはなりません」
「どうすればよいのだ」
「私にすべておまかせください。ジュヌヴィエーヴと子供を湖の底に沈めさせてしまいます」
「よし」
ジークフリートの許可を得たゴロはジュヌヴィエーヴと子供を閉じ込めてある牢屋に向かった。
ゴロは部下の者たちに言った。
「この女と子供を縛り、そしてジークフリート様のご命令に従え」
「ジークフリート様は何をご命令になったのでしょうか」
「この二人を殺してしまうのだ」
「なぜです。どのような悪いことをしたのでしょうか」
「お前たちは、そんなことは知らなくてもよいのだ。ジークフリート様のご命令に従っていればそれでよいのだ。さもないと、お前たちも死ぬことになるぞ」
部下たちは悲痛な面持ちで二人を縛り、森へ向かった。
部下のひとりが言った。
「こんな潔白な人が悪いことをするものだろうか」
部下たちのあいだで討論が始まった。
「みんな、よく聞け。俺たちはジュヌヴィエーヴ様が死に値するようなどんな罪を犯したのかを知らされていない」
一同は答えた。
「そのとおり」
「いったい何をしたというのだ」
一同は答えた。
「ジュヌヴィエーヴ様は無実のはずだ。悪いことなど何もなさっていないのだ」
「なぜ、子供とともに縛られていなくてはならないのだ」
「許されるすべはないのか」
「俺たちの手を血で汚すよりも、ここに置き去りにして野獣の餌食にしたほうがましだ」
「引き返そうぜ」
「ジュヌヴィエーヴ様は森の中にとどまるとお約束なさった。もう、森から出てこられることもなかろう」
何かジュヌヴィエーヴと子供を処刑したという証拠になるようなものはないかという話になった。
ひとりが言った。
「ほら、あそこに犬が一匹、俺たちのあとをついてくるだろう。あの犬はきっと神様に命じられているのだ。あの犬の舌を切り取るだけで処刑の証明に使えるだろうて」
一同は、森から引き返すのであった。
帰ってきた部下たちにゴロは尋ねた。
「どこに置き去りにしてきたのだ」
「殺したのです。これが証拠です」
切り取った犬の舌を見せた。
「よく命令に従ったな。ジークフリート様もご満足なさるであろう」
ゴロは部下たちの話をそのまま信じるのであった。
さて、一方、野獣のいる恐ろしい森に子供とともに置き去りにされたジュヌヴィエーヴは失意の底で泣いていた。
「何と悲しいことでしょう。贅沢な恵まれた生活のなかで育ち、ところが今ではまったくの一文無し。この子もまだ生まれてわずか一ヶ月だというのに」
子供に与える乳もなく、助けてくれる人もなく、ジュヌヴィエーヴは泣きながら聖母マリアに願うのであった。
「聖母マリア様、私は無実の罪をきせられています。どうかお助けください。私と子供を救えるのはあなただけです。どうか恐ろしい野獣どもから私たちをお守りください」
すると聖母マリアのとても優しい声が聞こえてきた。
「ジュヌヴィエーヴよ、私はいつもあなたとともにいます」
しばらく静寂が続いた。そして、神に導かれて一頭の雌鹿が現れ、子供の前に立った。ジュヌヴィエーヴはすぐに雌鹿の乳首を子供に突き出すと子供は乳を飲み始めた。
ジュヌヴィエーヴは、木の枝と棘のある茨で小屋を作った。ジュヌヴィエーヴと子供は森の草を食べながら、その場所で六年三ヶ月を過ごすことになる。
六年三ヶ月が経った。ジークフリートはエピファニーの祭日を祝うためにすべての兵士を召喚した。多くの兵士は祭日の前の日に到着した。そこで、ジークフリートは皆で楽しもうと狩をすることにした。狩の犬たちを放すとすぐに彼らの目の前に一頭の雌鹿が現れた。それはジュヌヴィエーヴの子供に乳を与えていた雌鹿である。雌鹿は狩をする者たちや犬たちをひきつけた。ジークフリートと家来たちも雌鹿のあとを追った。そして雌鹿が追い詰められた場所、それはまさしく以前ジュヌヴィエーヴの子供がいつも乳を飲んでいた場所であった。
一方、悪党ゴロはといえば、狩をする皆からはずいぶんと遅れ、まだかなり遠くのほうにいたのであった。
追い詰められた雌鹿はジュヌヴィエーヴの隠れ場所でいつものように子供の前に立った。後を追ってきた犬たちは雌鹿に飛びかかろうとした。ジュヌヴィエーヴは、神から与えられた大切な雌鹿が犬たちに殺されそうになっているのを見て、あわてて犬たちを追い払おうと腕を振り回した。
そのとき、ジークフリートと家来たちが来て、ひとりの女が犬たちと戦っている様子を見た。
「犬たちを抑えよ」
家来たちはそのとおりにした。ジークフリートは、この女と話すことにした。ジークフリートは女が誰であるかには気がついていない。
「あなたは、キリスト教徒ではありませんね」
女は答えた。
「私はキリスト教徒です。ごらんのとおり裸です。皆の目にさらされないよう、あなたの着ている服をください。」
ジークフリートは自分の服を差し出し、女はそれで身を包んだ。
「女よ、あなたは服も食べ物もないのか」
「パンはありませんが、森の草を食べています。長い間、このように生きていますので服もボロボロに擦り切れ、ついにはなくなってしまいました」
「いったい何年このように生きているのだ」
「六年と三ヶ月、ここに生きています」
「その子は誰の子だ」
女は答えた。
「わたしの子です」
ジークフリートは、その子の美しい容姿に感心した。
「その子の父親は誰だ」
「神が知っています」
「なぜ森の中にいる。名は何という」
「わたしの名はジュヌヴィエーヴです」
それを聞いて、ジークフリートはその女がひょっとして自分の妻ではないのかと思った。家来のひとりが飛び出して来た。
「これは大変なことだ。死んだものと皆が思っていた奥様なのか。もしそうならば、顔に消えない傷があるはずだ」
家来たちは皆、女に近づき顔の傷を見た。
ジークフリートは言った。
「結婚指輪をしていたのだが」
二人の兵士が女に近づき結婚指輪を確認した。ジークフリートは当惑し、すぐにジュヌヴィエーヴに接吻をした。
「あなたはまさしく私の妻、ジュヌヴィエーヴ。そして、この子は私の息子だ」
ジュヌヴィエーヴは、身に起こったことのすべてを語り、一同はその言葉のひとつひとつを噛みしめるように聞いた。皆が泣いた。皆が泣きながら、そして喜びを感じていたちょうどそのとき、悪党ゴロがその場に着いたのであった。皆はゴロに飛びつき、即座に殺そうとした。ジークフリートは言った。
「待て。どのような刑がその者にふさわしいか皆で決めるまで取り押さえておけ」
そこで決まった刑というのは、四頭の野生の牡牛を連れてきて、くびきをつける。すると牡牛は暴れるが、それを押さえながらゴロの二本の手と二本の足をそれぞれの牡牛に結びつけ、そして牡牛たちを開放するというものであった。実際、四頭の牡牛のそれぞれが暴れながら勝手な方向に逃げようとし、悪党ゴロは八つ裂きとなった。
そのあと、すぐにジークフリートは妻と息子とともに宮廷に帰ろうとしたのだが、妻は承知しなかった。
「この地で恐ろしい野獣から私たちを守り、野生の動物の乳によってこの子を育ててくださったのは聖母マリア様です。この地を聖母マリア様の御名により奉献することなしに離れることはできません」
ジークフリートはヒドルフ大司教によるこの地の奉献を願い、ただちにオフテンディンク宮殿に使者を差し向けた。
ヒドルフ大司教はこの話を知ると大いに喜び、翌日のエピファニーの祭日、この地を訪れ、聖なる三位一体と聖母マリアの栄光のためにこの地を奉献した。この儀式のあとジークフリートは妻と息子を連れてトリアーの宮廷に帰り、祝宴が催された。ジュヌヴィエーヴは、かの地に礼拝堂を建立すること、そしてその礼拝堂への財産の寄付をジークフリートに願い、ジークフリートはそれを承諾した。ジークフリートは妻の体力を回復させるよう特別な料理を作らせるのだが、妻は六年三ヶ月のあいだ森で食べた生の草以外のものを食べることはできなかった。
ジュヌヴィエーヴは森で見つかった日、すなわちエピファニーの祭日の前日から四月二日までおよそ九十日間生きた。四月二日、ジュヌヴィエーヴは神のみもとに召された。ジークフリートは約束どおり、かの地に聖母マリアを讃えた礼拝堂を建立し、そこに愛する妻を泣きながら埋葬した。ヒドルフ大司教は礼拝堂を奉献し、四十日間の免罪を定めた。その後、そこで数々の奇跡が起こったのだが、礼拝堂奉献のその日だけでも二つの奇跡が起こっている。礼拝堂奉献の日、同じ場所で同時に起こった奇跡。盲人の目が見えるようになり、おしの人が喋るようになったのだ。聖母マリアの御加護である。ジークフリートの願いで、ローマ教皇は聖母被昇天の祭日、キリスト降誕の祭日、復活祭、聖霊降臨祭、エピファニー、奉献の日の祭日に聖母マリアの礼拝堂を訪れた人には一年間の免罪を定めた。さらに、ローマ教皇は上記の祭日のそれぞれの八日後にこの礼拝堂でミサを聴いた者には既に課されている苦行のすべてが免除されることを定めた。
おわり。
ジュヌヴィエーヴ・ド・ブラバン
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